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アニマル・アパート・ファミリー  作者: アンテ・メーテ
どこにでもあるようなアパートは、実はマフィアの本拠地である
1/11

マフィアの1日は、食堂から始まる

街外れのアパートに、その日も朝がやって来た。ベランダに干された色とりどりの洗濯物を朝日が照らし出す。アパートの近隣に、美味しそうな朝食の匂いが漂う。鉄製のドアが開く音がして、続々と人が出てくる。アパートの2階は大食堂になっている。近隣に漂う朝ごはんの匂いの発生源はここだ。


「おら、朝飯だ!今日は和食パラダイスだから、沢山食って仕事頑張れよ!」


大食堂に向かい合う形の厨房の中で腕を振るう杯江田(はいえだ)奈菜(なな)は、額に滲ませた汗をハンカチで拭うと、大鍋に入った味噌汁を机に運んだ。既に10人以上が大食堂に着いていて、各々食器を準備したり、アパートの住民と話したりしている。


舞桜(まお)!アンタも手伝いな!そこでボーッと突っ立ってんじゃないよ。」


奈菜(なな)舞桜(まお)と呼んだ少女にフォークを投げ付けた。彼女は、投げ付けられたフォークを見ずに、人差し指と中指の間に挟む形でキャッチした。


奈菜(なな)さん!私、今日は目覚まし時計と一緒に起きたんだからね!めっちゃ眠いの!」

「アタシは朝の4時に起きてるんだからな。」

奈菜(なな)さんは料理人(コック)だからでしょ!」

「全く。2人共、朝から元気ですね。」


論点が分からない言い争いをしている二人の横で、黒いカーディガンを羽織った若い女性が溜め息を付きながらコーヒーを啜る。


「うわ、亜澄(あすみ)さんったらブラックコーヒー飲んでる。砂糖とかミルクとか要らないの?」

「私には甘いものは向いていませんから。それに、徹夜で情報処理していたので。いつもカフェインは欠かせません。」

亜澄(あすみ)、緑茶淹れてやるから今日はゆっくり休めよ。」

「ありがとうございます。」


亜澄は僅かに目を細めた。その顔が笑っていることを理解できるのは、彼女と長い関係を持ったアパートの住民だけである。ガヤガヤと騒がしいのがこの食堂の日常茶飯事だ、ある人が入ってくるまでは。

杖をついた男性が食堂に入ってきた途端、食堂は一瞬静まり返った。「獅子岡(ししおか)広牙(こうが)」。その名を知らない人は、このアパートにいるはずがない。彼は、このアパートの大家さんだ。


「皆、おはよう。」


彼は春の日差しを思わせる穏やかな笑みを湛えて、食堂にいるアパートの住民に挨拶をした。


「「「「おはよーございます!」」」」


住民達は、明るく挨拶をした。そして、各々会話や準備に戻った。亜澄(あすみ)はカップを机に置くと、広牙(こうが)のサポートに回った。


「おはようございます、首領(ボス)。今朝はどうですか?」

「昨日ヒューチューブでストレッチをしたせいか、とても腰の調子が良くてね。杖が必要ないと思ったんだが、やはり階段で疲れてしまった。」

「無理をなさらないでください。貴方がいなくなってしまうと、ここにいる全ての者が、」

「分かっているよ、亜澄(あすみ)君。それより、(きょう)君は徹夜で仕事をしていたらしいから、今朝は遅くなるらしい。何度も執拗にチャイムを鳴らすのは止めてあげてくれ。」

「仰せのままに。彼女には夜通し頑張っていただいたものですから、今回ばかりは労う必要を感じます。」

首領(ボス)ー!ご飯出来ましたよー!食べましょー!」


朝食の皿が乗ったお盆を持った舞桜(まお)が、少し離れた所から2人に訴える。食堂にいる住民達は、微笑ましさを感じる者、呆れ笑いを浮かべるもの、気にしない者、と様々だ。奈菜(なな)は、広牙の方に歩み寄った。


「今日の朝食は?」

「和食パラダイス!少し味を薄くしたから、健康に気を使って少量にしなくても良いんだぜ!」

「おお、それは楽しみだ。そういえば奈菜(なな)君、もし暇があれば(きょう)君に朝食を残してくれないか?」

「もちろん!アイツ、徹夜で仕事してたからな。しかも、飯食わないと頭も働かないしよ。」


3人は、自分達の朝食を取るために、鍋や炊飯器が乗ったワゴンに向かった。


お気づきだろうか。このアパートは、ただのアパートではない。「アニマル・ファミリー」という名で知られるマフィアの本拠地だ。しかも、この組織はただのマフィアではない。裏社会に蔓延る闇と戦う、「白いマフィア(ホワイト・マフィア)」だ。彼らの存在を知る者は、日本の中にも一握りしかいない。


首領(ボス)獅子岡広牙(ライオン)黒羽亜澄(クロウ)杯江田奈菜(ハイエナ)陽影舞桜(パンダ)福来鏡(オウル)という動物から取った(コードネーム)を持つメンバーの集まりだ。他にもいるが、数が多すぎるのでまたの機会に紹介しようと思う。


「そういえば、舞桜(まお)君。後で私の部屋に来てくれないか。大事な依頼がある。」

「仰せのままに!」


広牙(こうが)に呼び出しを食らった舞桜(まお)は、努めて元気な声で答えた。しかし、僅かに舞桜(まお)の足が震えているのを奈菜(なな)は見てしまった。


(Best of luck to you、舞桜(パンダ)。)


彼女は心の中で励ましの言葉をかけた。尚、舞桜(まお)には届いていない様だ。

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