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「失踪」

ブリムブリガ皇国の首都の城内は喧騒に包まれていた。


伝令により、魔王軍討伐部隊が魔王軍に占拠されたアーロス領リスキス村の解放作戦で大損害を受けたという報告が届いたからだ。

しかも、司令官ボーズギア皇子と、勇者ジンダイとの間でいさかいが有り、勇者ジンダイは部隊から姿を消したのだと言う。

部隊の損害、勇者の失踪、と2つの出来事が皇国の首脳部に大きな衝撃を与えていた。


ひとつは国民への影響。

国民が魔王軍に怯え、経済や領地間の交流などの活動が委縮する恐れや、過度な不安が流布するのは皇国にとってマイナスでしかない。

そして、皇国と勇者の間での関係不和が疑われ、不安に拍車をかける可能性が有った。


そしてもうひとつは国外への影響。

皇国軍の戦力が消耗し、勇者の完全な支援が無いと見透かされれば、国境に争いを持つ地域での火種に成り兼ねなかった。


「わたくしは今から急ぎ、魔王軍討伐部隊まで出向き、事の詳細を確認いたしたく存じます」

セレーニアは、皇帝、リューベナッハ皇妃、そして、クロスフィニア皇女が居並ぶ席で、膝をついて上申していた。

「正確な事柄を確認いたしませんと、今後の国家のかじ取りに誤りが生じるやもしれません」

「何卒、現地へ赴く事、お認め頂きたくお願いいたします」

皇帝は考える目をしていたが、リューベナッハ皇妃は無表情であった。


「わたくしからもお願い申し上げます、皇帝陛下」

セレーニアの申し出に賛同する姿勢のクロスフィニア皇女も口添えする。


「どういう理由が有るにしろ、逃亡するというのは、軍規に照らすとどうなのかしら?ねえ?」

リューベナッハ妃が皇帝にぽつりと語り掛ける。

確かにこれは正論だった。

勇者ジンダイはボーズギア皇子と言い争った後、姿を消した、という事だけが伝わっていた。

それだけを聞けば、勇者ジンダイに非が有るように思うのが普通だった。

しかし、失踪と逃亡では意味合いが大きく異なる。

リューベナッハ妃はさりげなく、ジンダイが「逃亡」したと表現した。


「う、く・・・・」

セレーニアはその言葉に反論しかけたが、グッと抑える。

リューベナッハ妃は皇帝に話しかけているのであり、セレーニアが口を挟むのは憚られた。

それを見透かすように、リューベナッハ妃は横目でセレーニアを見る。


しかし、クロスフィニア皇女がぽつりと言う。

「軍紀は大切ですが事は戦争にかかわる事」

「魔王軍討伐部隊も大きな損害を受けた状況を鑑み、部隊を救うためなど、やむを得ない事情が有ったやも知れません」

クロスフィニア皇女は誰に言うでもなく、正面を向いて呟く。


「あら、それは過大な想像のようですね」

リューベナッハ妃も正面を向いて呟く。


「どういう状況、どちらが悪い、といった事も、詳細はわからぬ状況ですから、今の時点では何とも言えないのではないでしょうか」

更にクロスフィニア皇女が呟く。


「そ、それは、司令官が悪い、という事を想像されてのお言葉?」

リューベナッハ妃に怒りの色がにじむ。

皇帝の前でボーズギア皇子を悪く言うようなことは言わせないという姿勢がうかがえる。


「勇者様が悪い、という状況であっても、皇国にとっては重大事」

「だから、まずは正確な状況を把握するべきはずです、皇帝陛下」

クロスフィニア皇女の整然とした言葉に、皇帝もうなずく。


そして皇帝が口を開く。

「リューベナッハよ、子を思うそなたの気持ちはわかる、だが、事これは国家のかじ取りにかかる話」

「勇者ジンダイ殿はちんが正式に任命した勇者」

「勇者に非が有るなら朕から諫めよう、もし、ボーズギアに非が有るのなら、そなたが諫めればよい」

リューベナッハ妃、クロスフィニア皇女が共に頭を下げ、かしこまる。


皇帝はセレーニアに向かい命ずる。

「セレーニア・ヴィジランテよ、そなたは現地へ赴き、今般の勇者ジンダイ殿が失踪に至った経緯に関する調査を命ずる」


セレーニアはかしこまり言う。

「はっ、陛下のご命令のままに」

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