「救出作戦」
迅代達はまず、なだらかな丘を戦場のほうに下り、平原を進んで、攻撃を受けている司令部部隊の隊列の500メルト※前まで進出した。
※約300m
ここでもまだ丘の斜面で戦場より高い位置になる。
間接射撃には絶好のポイントだ。
司令部部隊の様子を確認すると、馬車は扉が閉じられている。
その周囲を司令部護衛隊の兵士と騎士が戦っている。
だが、魔物の数が多く、このままでは長くは持たない様子だった。
「では、支援射撃の方、頼みます」
そう言って、迅代は、アークス、オーリア、ヴォルカを連れて前進する。
弓兵たち4人は頷き、弓矢の射撃の準備を行う。
迅代達4人は、姿勢を低くして移動、更に接近し、50メルト※ほどの距離に近づくが、まだ敵には発見されていないようだ。
※約30m
そこで、また、様子を確認する。
魔物の主力部隊は、やはり、攻撃部隊との戦闘に投入されて、後方の攻撃は、数は多いが、オークやコボルドが主力のいわば軽歩兵部隊だった。
しかし、時間が経つにつれ、司令部部隊の護衛兵の数が撃ち減らされている。
司令部部隊の馬車もオーク数体が棍棒でガンガンと叩き出していた。
「これは、まずい、急がないと・・・」
迅代はつぶやき、後方の弓兵に手を挙げて合図を送る。
「では、騎士様、頼みます」
「私は突入しますので、派手に動いて敵を引き付けてください」
迅代が、アークスのほうを見て言う。
「わ、わかった、皇子殿下のほうは頼みます、勇者ジンダイ様!」
アークスはそう返すと、立ち上がる。
迅代は姿勢を低くしたまま、遮蔽物を探しながら、司令部部隊の隊列後方から接近するように動く。
それと同時に、弓兵からの矢が、司令部部隊の付近にいる魔物に射かけられる。
4人なので圧倒するほどの攻撃では無いが、予想外の方向からの矢に、魔王軍部隊は混乱し出す。
そして、矢の方向に仁王立ちの騎士アークスを認め、部隊を分割して対応し出す。
敵の隊列が2つ、アークスのほうに向かって来る。
「よし、準備は良いか?」
少しドヤ顔が入っているアークスが、オーリアとヴォルカに声をかける。
「調子いいんだから」
オーリアが小声で言う。
「何か言ったか?」
「いえ、準備出来ました」
ヴォルカが代わりに答える。
「では、私が目標を指示する」
アークスに指示されると聞いて、オーリアとヴォルカは顔を見合せ、うへー、という顔になる。
「右、前方のコボルド、射て!」
アークスの指示は気に入らないが、実戦だ、余計な事は考えていられない。
「ひゅん!」「ひゅん!」
ヴォルカの矢は外れたが、オーリアの矢は胴に当たった。
しかし、胸当てに当たり、傷は浅いようだ。
一瞬怯んだが、矢を引き抜いて、まだ前進してくる。
「次!さっきの奴の後方のコボルド、射て!」
「ひゅん!」「ひゅん!」
今度は足と肩に当たった。
目標となったコボルドは転倒した。
そうしてアークスは次々と目標を指示し、オーリアとヴォルカは敵にダメージを与えて行く。
もう1隊、コボルドとオークの混成部隊が正面から接近してくる。
オークが2体も居る。
アークスは後方の弓兵に身振りで指示を出す。
すると、4本の矢が混成部隊のオークめがけて射かけられる。
矢はオークの1体に当たった。
ロングボウの威力は大きく、オークの付けている胸当てを貫通し、大きなダメージを与えたようだ。
アークスたちは、魔物部隊の注意を引き付ける役目を十分果たしていた。




