「クロスボウ」
次は弓矢を試してみる。
標的を遠方において、矢を射かけるかたちで確認する事になった。
まずはロングボウ。
しかし、ロングボウを引くのは迅代でも一苦労だった。
自分の知識の範囲で精一杯引き、射る。
しかし、距離も稼げず、命中率も全くだった。
ギャラリーに白けた雰囲気が漂う。
迅代は少し心が折れそうになったが、思い直す。
何らかの飛び道具が無いと自分流の戦い方は出来ない、と。
獲物をショートボウに変えてみた。
こちらは引きやすく的にも当てやすかった。
ただ近距離の的にしか届かなかった。
それと戦闘機動中の弓操作には全く自信が無かった。
それは今日初めて使うので当然なのだが。
最後に本命のクロスボウを試してみる。
トリガー形式ではなく上部の金具を押し込む形で矢を発射するのだが、さすがに銃のように扱えるので狙いやすく、当てやすい。
移動しながらの発射でも弾道特性を把握すれば距離次第だが良く命中した。
ただ、欠点は1発ずつしか弓矢を装填できない事。それと威力面での不足だった。
一通り試した後、セレーニアが様子を聞きに来た。
「いかがですか?弓のほうは?」
「武器としてはクロスボウが一番良いかな。でも、威力としては戦闘には厳しいんだよね?」
迅代の問いにセレーニアが答える。
「確かに戦争のように集団でぶつかるような合戦ではあまり役に立てないかも知れません」
「しかし、ジンダイ様は勇者。勇者として行動すならばそのセオリーは当たらないかも知れません」
1対1の決闘のような戦いだと確かにそうかも知れない。迅代は考える。
続けてセレーニアが言う。
「それと、もしかしたら魔法で矢の威力を上げる方法などが有るかも知れません」
「ジンダイ様の能力は魔法戦士に当たるものと思いますので、魔法と武器の組み合わせで装備を考えるのが良いかと思います」
なるほど、と迅代は考える。
迅代は、弓矢に関連する魔法について調べてもらえるよう、セレーニアに依頼し、今日の測定は終わる事とした。
一休みした後、セレーニアに今日の結果を忌憚ない意見を言ってもらうこととした。
セレーニアのほうも他の勇者の情報が有ると言う事だった。
セレーニアを部屋に招くなり、率直に迅代は質問した。
「俺の評価としては、どうだろうか?」
少し間をおいて、セレーニアが口を開いた。
「近衛隊の騎士を勤め上げる実力はジンダイ様にございます」
「おそらく、魔法の力を磨けば、近衛隊で一番の魔法戦士になれる程でしょう」
迅代もその言葉の後少し間を置き、聞いた。
「勇者としてはどうだろうか?」
セレーニアは少し目を伏せた。
そして再び迅代を見据えて言った。
「残念ながら、3勇者様たちの力と比べれば、及ぶべくも無いでしょう」
セレーニアは続けて、3勇者の情報を話してくれた。
「剣士ヴィンツ様は、Bクラス魔獣「ヒュドラ」が巣食っている森に討伐に出かけられました」
「そこで、出てくる数々の魔獣を一刀にて切り捨てて進み、討伐に兵士50名は必要とされるヒュドラも、難なくおひとりで討伐されたとの事です」
「魔法戦士ザーリージャ様は、1対10の模擬戦を行われ、魔法による翻弄と攻撃、それに加えて、メイスによる打撃で、ものの1分で10人全員を失神させてしまいました」
「その10人の兵士も、近衛隊の精鋭チームだったと聞いております」
「魔法士アリーチェ様は、魔力の誇示をお願いしましたら、大規模魔法「スレッジャーギーム」を発動され、小山が一つ消し飛んだと聞いております」
「また、使い魔の黒獣「グリム」は、魔獣使いの評価ではAクラス魔獣と同等の力を持っているとの査定でした」
「あの使い魔が本気で暴れれば近衛隊が全滅するほどの力が有るでしょう」
なるほど、自分は人間の域を出ない実力であり、「勇者級」では無いのだな、と理解した。
このまま勇者として居てはいけないのではないか?そう考えるようになった。