「救援」
「ところで、何故、勇者ジンダイ様がここに居るんです?」
「あなたは、謹慎の身のはずだが?」
アークスは迅代のほうに向かって言う。
「それは・・・」
胡麻化すことも考えたが、ここは素直に言う事にした。
「部下を見殺しに出来なかったからです」
迅代はアークスと支援部隊の弓兵を交互に見て続ける。
「あなたたちは、スカウト部隊の新兵2名を置き去りにするつもりでしたね?」
アークスの顔が赤くなる。
だが、支援部隊の4人は、きょとんとしている。
アークスは慌てて否定する。
「そ、そんな事をする訳が無い、置き去りなど・・・」
「だから、私は部下2名の脱出を支援するために来たのです」
「し、しかし、それは、証拠が無いだろ」
「何を根拠に私が2人を置き去りにすると」
「ドオオオオオオォォン!」
迅代とアークスが言い争っていると、大きな爆発が起きる。
音のしたほうを見ると、丘の向こう側で盛大に土煙が舞い上がっていた。
「大規模魔法?」
「本隊の戦いが始まったのか?」
アークスが独り言のように呟く。
「いや、戦闘開始は、我が隊の火矢による火災が発生してからのはず・・・」
「時間も早すぎる」
色々な事が起きて、混乱しているアークス。
そこに迅代が口を挟む。
「大規模魔法の爆発も、敵の方向、村からも少しずれているようだ」
「これは・・・本隊が魔物の部隊に奇襲されている可能性が有る」
「俺たちを奇襲したように・・・」
「ど、どうすれば・・・」
アークスは混乱で思考が定まらず、おろおろしている。
「とにかく、本隊に戻りましょう」
「こんな爆発が起きているのに、今更、陽動も無いでしょう」
「それに、こっちにも敵が増援を送ってくるかもしれない」
迅代はアークスを説得する。
「丘を越えて進めば、すぐに本隊に接触できるはずです」
「まずは様子だけでも確認するべきです」
迅代の言葉にアークスは、答える。
「わ、わかった」
「丘を越えて本隊の様子を確認しよう」
「全員、装備をまとめろ」
「準備が出来たら丘を越える」
アークスはかろうじて貴族の騎士らしく、命令を下す。
「少し先行して様子を見てきます」
迅代はアークスに告げると、オーリアとヴォルカに向かい、言った。
「お前たち、新兵にしては良くやった」
「その調子で頼むぞ」
「えへへ、褒められた」
オーリアは喜ぶが、ヴォルカは前提を忘れていない。
「いつの間にか戦う事になってるんですけど」
ヴォルカの言葉に迅代は笑ってごまかし、丘のほうに向かって行った。
迅代が丘に登ると、2000メルト※ほど先に見える、本隊の隊列の所々で戦闘が行われていた。
※1200mほど
村を目前にした道で戦いが繰り広げられている。
前衛である部隊先頭の攻撃部隊の所には、大きな魔物が3体ほど見える。
それ以外にも、兵士サイズの魔物が多数で取り囲んでいる。
恐らく、攻撃部隊の勇者二人、ヴィンツとザーリージャは釘付けになっているのだろう。
そして魔法支援部隊、司令部部隊、支援部隊にも魔物の軍勢が群がっている。
恐らく長い隊列の真ん中あたりで大規模な伏兵部隊が奇襲したのだろう。
最悪な事に、部隊ごとに分断包囲されつつある。
攻撃部隊以外の部隊は直接攻撃に弱い。
これでは、各個にすり潰されてしまうだろう。
後方の補給部隊や輸送伝令隊はあまり攻撃を受けていない。
しかし、戦闘部隊では無いため、救援部隊を組織して対抗するような行動はできていないようだ。
「こ、これは・・・」
追いついて来たアークスは声を上げる。
本隊の惨状を見て呆然とする。
全員が丘に到達したのを見て、迅代が言う。
「我々で奇襲を行い、司令部部隊をまず救出しましょう」
「幸い、魔法支援部隊はある程度対抗できているようだ」
「司令部がやられると、部隊の統率が維持できなくなる」
その場の全員が頷く。
「まずは全員で、見つからないように500メルト※付近まで接近する」
※約300m
「そして、支援部隊の弓兵4名はそこで陣取り、合図したら、我々の進路を弓矢の攻撃で切り開いてもらう」
弓兵の4人は頷く。
「俺と騎士様、オーリア、ヴォルカは前進、50メルト※ほどまで近づき、敵を引きつけます」
※約30m
「オーリアとヴォルカはそこで支援射撃、騎士様は2人に接近する敵を防いでください」
アークス、オーリア、ヴォルカが頷く。
「そして俺が司令部馬車に取り付いて司令官の救出を行いますので、各員はこれを支援してください」
全員が頷く。
「では、行こう!」
そう言うと迅代は先頭に立って進み始めた。




