「奇襲攻撃」
支援部隊の弓兵が準備を進めているのを尻目に、オーリアとヴォルカは彼らから離れて、警戒任務に着く場所を探していた。
「あの騎士に変な事言うなよ」
ヴォルカはオーリアにさっきの会話について注意する。
「へへ、ちょっとイジめたくなってね」
「少しは心が痛むでしょ」
オーリアは平気な顔で言う。
「本当に見捨てる気かな?」
ヴォルカは可能性はほとんど無いが、味方が自分たちを見捨てる決定をしていることを否定したかった。
「どうだろうね」
「でも、私たちは徒歩、他は騎乗してるから、万が一の時は見捨てられるんだろうね」
オーリアはこういう事も平気な顔で言う。
「それから、あの騎士は、少なくとも私たちに後ろめたい気持ちは有るみたいだね」
オーリアはそう言うと、弓兵と騎士が居るほうに振り向く。
「・・・」
ヴォルカもそれに合わせるように後ろを振り向く。
するとヴォルカは弓兵たちの向こうに、キラリと何かが光ったような気がした。
「うん?・・・」
ヴォルカはその辺りをよく見直す。
迅代が木陰に隠れてナイフに太陽の光を反射させて合図していた。
『隊長!』
ヴォルカは、クロスボウを上にあげて、迅代に見つけた事を合図する。
「何やってんの?」
オーリアが不審な顔でヴォルカを見る。
ヴォルカが口に指をあてて、しーというアクションをして言う。
「隊長が向こうにいる」
「え?どこ??」
「あの騎士にばれないように」
そうオーリアに言って、場所を説明する。
「弓兵たちの向こうの、右側の木が生えている所」
「あ、ほんとだ」
「なんだかクロスボウを操作しているよね?」
『矢の装填操作かな?』
ヴォルカは遠くで迅代が身振りをしているのを見て考える。
『戦闘準備をしておけ、って事か?』
ヴォルカはそう解釈して、オーリアに告げる。
「隊長の身振り、戦闘準備をしろって事じゃ無いか?」
「じゃあ、騎士と弓兵を倒すって事??」
「まさか、囮にされる準備じゃないか?」
「とにかく、矢の装填はしておこう」
「そうだね」
ヴォルカとオーリアはその場で座り込み、装備品を広げて矢の装填を始める。
30メルト※ほど先で2人が立ち止まって何やらクロスボウをいじっているのを見てアークスは少しイライラする。
※18mほど
『何やってるんだアイツら、さっさと距離を取れよ』
『・・・』
『うん?・・・』
アークスは視線の先の林が揺れたような気がした。
そして、その林の陰から現れたのは8メルト※どほの背丈のトロールだった。
※約5m
「と、トロール・・・」
アークスの顔が真っ青になる。
「てき・・・敵襲!」
周囲で装備を準備している弓兵にもその声は聞こえる。
「敵襲?」
一斉に、アークスのほうを見た弓兵は、2体の巨体、トロールがこちらに向かって来るのが見える。
「ズサっ!」
「ぐっ!」
突然、弓兵の一人が肩に痛みを感じる。
その弓兵の肩には矢が刺さっていた。
同時に、数本の矢がトロールと反対側から降り注ぐ。
その矢は別の弓兵の足に刺さる。
「後方から、弓矢の攻撃!」
「距離は、80メルト※ほど」
※約50mほど
丘の上から数体のコボルトが弓を引いているのが見える。
そして、5~6体のコボルドが、広がって包囲環を形成するように突撃してくる。
「敵が5体、いや、6体接近中!」
弓兵がアークスに報告する。
トロールのほうも全貌が見えて来た、トロール以外にオークが2体とコボルドが5~6体居る。
こちらは距離が50メルト※ほど、弓装備の者は居ないようだ。
※約30m
その魔物の部隊が到達すれば勝てそうにはないが、進軍速度はトロールの移動に合わせてあまり速くない。
アークスは混乱する。
『敵に見つかった、いや、奇襲された』
『どうする?撤退?いや、任務が』
『でも、このままでは・・・』
「騎士様、戦わないんですか?」
走って戻って来たオーリアがアークスに言う。
無論ヴォルカも付いてきている。
「わかっておる!」
「目標、接近中のコボルド、撃て!」
オーリア、ヴォルカ、そして無傷の弓兵は、接近してくる6体のコボルドを狙う。
「ひゅん!」「ひゅん!」
しかし、素早い動きのコボルドにはなかなか当たらない。
「ひゅん!」「ひゅん!」
そのうち、1体、コボルドが、つんのめって倒れる。
そしてもう1体、走っている途中でこけて転がる。
体にはロングボウの矢が刺さっていた。
あと15メルト※ほどまで接近された状況を見て接近戦を覚悟するアークス。
※約10m
『く!4体相手に勝てるのか??』
アークスは自身のロングソードを抜いて声をかける。
「接近戦用意!」
弓兵の各員は自前のショートソードを構える。
オーリアとヴォルカはクロスボウのまま次発を装填する。
突然、最も接近していたコボルドがつんのめって倒れる。
横から矢を受けたようだ。
「!?」
狙っていた敵が突然倒れたので、剣を構えたままアークスは驚く。
「そっちは頼む!」
突然、横からすごい速さで走り出て来た兵士は、声をかけた後、走ってくるコボルドに切りつけ1体倒す。
そして別の1体のほうに向かった。
アークスも接近してくる別の1体に向かって剣を構える。
『1対1なら!』
コボルドのナイフと剣を交え、見事に討ち取る。
最後の一体のコボルドのほうを見ると、先ほどの兵士が討ち取った後だった。
アークスはその兵士の姿を見て、言った。
「勇者、ジンダイ・・・」




