「解任」
ボーズギア皇子、いや、魔王軍討伐部隊司令官によって、スカウト部隊の指揮官と言う地位を、迅代は解任された。
迅代は、今回の作戦行動終了後、査問を行うとして、輸送伝令部隊の貨物馬車で謹慎という事になった。
迅代のスカウト部隊指揮官解任は、2名の部下にも伝えられ、代理指揮官として司令部護衛隊のアークスと言う騎士が任命された。
アークスは、オーリアとヴォルカに向かって今後の行動について説明する。
「スカウト部隊所属の2名は、以後、私の命令に従うように」
「我が部隊は、明日朝に支援部隊の分遣隊と合同で、敵の後方に進出するため移動を行う、そして、戦闘開始前に、攪乱攻撃を実施する」
「勇者様の部隊である攻撃部隊を支援する、栄えある任務だ」
「しっかり任務をこなすように」
「あの、隊長、いえ、勇者ジンダイ様はどうしたんでしょう?」
「私たちは、作戦に参加しないと聞いていました」
オーリアがものおじせずにアークスに聞く。
オーリアの言葉にヴォルカもうんうんと頷く。
「勇者ジンダイ様は・・・司令官の命に背いたため、指揮官を解任、謹慎となった」
アークスは言いにくそうに言う。
「それは、司令官閣下が、我がスカウト部隊を戦闘に参加させようとしたからでしょうか?」
オーリアは更に聞く。
「ええい、うるさい、これは司令官閣下直々の命令である」
「刃向かうものは、命令違反、もしくは、敵前逃亡で処罰されるものと思え」
「知っているとは思うが、敵前逃亡はその場での処罰が認められている!」
アークスは面倒くさそうに言い切る。
その言葉には、2人は反論できなかった。
「では、明日の朝、支援部隊分遣隊と合流後に出発する」
「徒歩での進出である。行軍用装備と武装を整えておけ」
アークスはそう言うと、司令部部隊のほうに戻って行った。
オーリアはヴォルカに向かって呟く。
「これってヤバいやつだよね」
ヴォルカもさすがに落ち着かないのか口を開く。
「そうだな、だいたい攪乱攻撃って囮作戦なんじゃないかな」
「俺たちに死ねって事なのか・・・前回の戦いの英雄みたいに」
その言葉を受けてオーリアが面白そうに言う。
「あははっ、英雄、スカウト部隊に所属すると英雄になるんだね」
ヴォルカは冷めた目で言い返す。
「面白くねえよ、本当に死ぬんだぞ」
面白がっているように見えたオーリアの顔は引きつっていた。
魔王軍討伐部隊は、その日は野営して、明日の昼に、一気に村に攻撃を仕掛けるとして作戦が組まれていた。
そんな中、迅代は輸送伝令部隊の馬車の中で大人しくうなだれていた。
『今のこの部隊では、どんな声を上げても無駄だ』
そういった無力感が何もやる気を起きなくさせていた。
そこに、馬車の荷台をコンコンと叩く音がする。
迅代が顔を上げると、そこには、輸送伝令部隊の指揮官、クーリッツが居た。
「夕食をお持ちしましたよ」
クーリッツはトレイに載せたパンとスープ、そして少量の肉料理を持ってきていた。
魔王軍討伐部隊本隊には給食部隊が有るため、食事はまともだった。
「ありがとうございます。でも、今は・・・」
「食べておいたほうが良い、明日は戦闘ですぜ」
「・・・俺がスカウト部隊の指揮官を解任されたのは知ってるでしょう?」
迅代の陰鬱な顔を見て、クーリッツはぽつりと言う。
「さっきは、すみませんでした、擁護できず・・・」
迅代は少し間を置いて、クーリッツに返事をする。
「いえ、ボーズギア皇子が相手では、誰が何を言っても覆すことは出来ないでしょう」
「仕方が無いですよ」
少しの間、沈黙があって、クーリッツが口を開く。
「スカウト部隊はやはり後方攪乱に駆り出されるそうです」
迅代がクーリッツのほうを向く。
「代理指揮官が任命されて、明日朝出撃だそうです」
迅代の目に怒りの色がにじむ。そして呟く。
「ボーズギア皇子は、まだ、スカウト部隊を囮に?」
クーリッツは目を伏せて言う。
「前回の戦いが上手く行ったので、その再現を狙っているのでしょう」
「後方に敵を引き付け、大規模魔法攻撃の後に正面から攻撃部隊を突入させる」
「そして、勇者様の剛腕で勝つ、とね」
『確かに一旦後方に敵を引き付け、攻撃する戦法は、定石的で悪くは無い』
『しかし、引き付ける部隊の犠牲に目を瞑れば、だ』
迅代は押し黙って考える。
「代理指揮官は、司令官閣下の護衛の騎士。騎乗して同行するそうです」
「すなわち、徒歩の兵が取り残される、おそらく、そういう腹なんでしょう」
クーリッツは夜空を見上げて言う。
「ありがとうございました。夕食、いただきます」
迅代はそう言うと、黙々と食べだした。
『夜のうちに装備を整えて、早い目に寝ておこう』
そう思いながら。




