「威力偵察」
魔王軍討伐部隊の一行は、アーロス領の中心都市、アーロサンデに到着した。
問題の村まではここから馬で1日ほどの距離になる。
一応ついて来たスカウト部隊も、新兵2人は馬に乗れないため、輸送伝令部隊の馬車を間借りしての移動となった。
もっとも、迅代としては作戦行動はしないつもりなので丁度いいと思っていたが。
アーロサンデでは、領主と戦士団、そして民衆が集まって、部隊の到着を歓迎していた。
アーロス領の領主である、ビゼール・アーロス子爵はボーズギア皇子と懇意の仲らしく、歓迎の宴を催すと言う。
部隊の指揮官や騎士の貴族のたち、そして勇者たちも招待された。
しかし、ザーリージャは無視してどこかに居なくなり、アリーチェはお休みしたいと言ってさっさと宿泊施設に引きこもった。
ヴィンツと迅代が結局参加したのだが、ボーズギア皇子は当然、迅代を相手にせず、ヴィンツを領主に紹介し偉大さを褒めたたえていた。
迅代としては会場の隅で、いつもより良い料理をつまんで、少しだが恩恵を受けていた。
そこに輸送伝令部隊の指揮官が話しかけて来た。
「勇者ジンダイ様、楽しんでますか?」
迅代は任務のこと以外話したことが無いので少し焦る。
『確か、クーリッツと言う、地方貴族の息子だったような』
「パーティーみたいなものは苦手でね。クーリッツ殿はどうなんです?」
「ははは、パーティーは大好きですが、作戦前なのでね」
クーリッツは少し真顔になる。
「不安でもありますか?」
迅代は相手の様子を見る発言をしてみる。
「そうですね、イケイケドンドンでは勝ち続けられない気が・・・あ、司令官に聞かれると睨まれるかもですが」
クーリッツはそう言って頭をかく。
「慎重派なんですね」
「それほど繊細ってわけじゃ無いんですがね、やっぱり部下を持つと・・・」
クーリッツは一見大男で貴族の出とは思えない風体をしているので繊細なのは似合わない感じだが。
「ルーフとグリン、お預かりした2人は死なせてしまいました」
迅代はクーリッツと目を合わせないで言う。
クーリッツは手の持ったグラスを煽って言う。
「ルーフをあれほど働かせたのはジンダイ様ぐらいですよ」
「さすが勇者様だ」
そう言うとニヤリと笑った。
「ふふ、そうかも知れません」
迅代はうつむいて笑った。
「明日、司令官殿は、短期決戦で早々に突撃制圧を目指すみたいですよ」
クーリッツが小声で言う。
迅代は今回の作戦会議には呼ばれていないため、実際の作戦行動を知っていなかった。
「でも、勇者は強力ですよ、それだけ自信を持っているんでしょう」
迅代は今回ばかりは手も足も出せないので、部隊の作戦を安易に否定できない。
「前回はスカウト部隊が十分に偵察してくれた、今回は短期決戦と言う名の無闇な全力攻撃ですぜ」
「指揮官は兵士を犠牲にしないといけない時もある」
「でも、無駄死には浮かばれない、そうは思っています」
クーリッツは赤い顔をして愚痴のように言う。
それを見て、クーリッツは良い指揮官なんだなと思って、ちびりと酒を飲んでいた。
---翌日---
魔王軍討伐部隊は、隊列を組んで、問題のリスキス村に向かってすでに半日ほど進んでいた。
『ボーズギア皇子は短期決戦を目指すと言うが、敵の戦力もわかっていないだろうに』
輸送伝令隊の馬車に揺られながら迅代は考えていた。
新兵二人も同じ馬車に同乗しているが、ふと見るとオーリアはうとうとと居眠りをしていた。
『相変わらず、図太いやつだな』
そう思いながらヴォルカのほうを見る。
こっちは俯いてはいるが寝てはいないようだ。
『緊張しているのか、こっちはグリンタイプだな』
「敵襲!敵襲!」
隊列の前のほうから伝令が叫んで回っている。
「オーリア、起きろ!敵襲だ!」
迅代は、オーリアを揺り起こす。
「て、てき??あわわ」
オーリアはばたばたと自分の身なりを確認する。
ヴォルカのほうは落ち着いて迅代のほうを見ているように見えた。
しかし、その目は不安でいっぱいのようだ。
「二人とも落ち着け、前衛には強力な勇者たちが居る」
「我々はいつでも飛び出して戦闘が出来るように準備して待機だ」
迅代は、二人の目を交互に見てゆっくり言う。
二人は同時に頷き、クロスボウを取り出す。
そうこうしている内に馬車の行き足が止まる。
『目的の村まではもう少しあるはずだ』
『敵は、全力で部隊を排除に来たのか、それとも威力偵察か』
迅代は、クロスボウを背負い、バトルナイフをいつでも取り出せるか確認し、馬車の外に出て確認する。
前方の攻撃部隊が居る辺りは、土煙が上がって、歓声が聞こえている。
『勇者たちが戦闘中なのか?』
ふと気づくと、ハーピーが3体ほど空中を飛んでいる。
そのうちの一体が後方の輸送伝令部隊や補給部隊の居るほうに飛んでくる。
迅代は自分のクロスボウを準備し、オーリアとヴォルカに声をかける。
「ハーピーを打ち落とす、2人とも射撃準備!」
いきなりの実戦に慌てる二人、だが迅代はたしなめる。
「慌てるな、もし射撃に適した位置に来れば、共同で攻撃する!」
オーリアは馬車の陰に、ヴォルカは馬車の中に陣取って射撃体勢を整える。
迅代は馬車の陰から接近してくるハーピーの姿を追う。
高さは20mほどの所で隊列後方に向かって飛んでいる。
『明らかに偵察か』
迅代はそう思いながらハーピーの動きを予測する。
「ハーピーは部隊の隊列の終端で折り返す」
「そこを狙って射撃する、準備しろ!」
迅代の予想通り、偵察活動のための部隊全貌の把握だったのであろう。
ハーピーはこんな後衛部隊に射撃されるとは思わず、悠々と折り返して部隊前方に飛んで行こうとする。
「狙え」
「撃て!」
「ひゅん」「ひゅん」「ひゅん」
迅代の掛け声と共に、3本の矢が放たれる。
さすがに初実戦で偏差射撃は難しかったか、オーリアの矢は外れたが、迅代と、ヴォルカの矢は翼と足に命中する。
「ギュエエーーーーー」
金切り声を上げてハーピーは墜落した。




