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「出撃命令」

スカウト部隊の再編成から10日ほど経った。

2人の新兵はようやく基礎体力が付いて来た感じだった。

兵練場グラウンドを10周した後に余力を持つ所は、なんとかこなせるようになった。

ヴォルカもオーリアも辟易しているようだが。


だが、兵隊は体力がまず無いと、何もできない。

戦う前に息が上がっていては、敵にやすやすと倒されてしまうだろう。

『生き残るためだ』

迅代はそう思いながら、毎日、基礎体力の訓練を実施していた。

ようやく、最低限の体力が付いて来たと判断した迅代は、次に、クロスボウの訓練を始めようとしていた。


「これがクロスボウですか、ちょっと重いです」

オーリアは相変わらず素直な発言をする。

ヴォルカのほうは、連射クロスボウの仕組みに興味を持っているようで、いろいろな角度から見て回している。


「ああ、我が隊のクロスボウは特別製で、矢が上部の装填箱に入っていて、矢をセットする必要はない」

「弦を引くことは必要だが」

迅代はオーリアに説明する。

「更に、矢は鉄製で、通常の弓矢の矢より、短いが貫徹力が高い」

「皮の戦闘服では容易に貫けるだろう」

「ただ、威力を出すために弦を引くのがちょっと大変だがな」

迅代は欠点も交え、連射クロスボウを説明する。


「今度はこれを含めた訓練を行う」

迅代の言葉にオーリアが続けて聞く。

「射撃訓練ですか?」

「そうだ」

「うふふー、ちょっと楽しみ」


連射クロスボウの訓練を始めたが、2人とも思いの他、操作に慣れるのが早かった。

元々、蓄積が必要な体力や技術よりは、集中力や精神力が影響する武器だ。

そういう意味では、誰もがある程度持っているものなので、即席に兵士を育成するには良い武器であった。

狙いさえ的確であれば、概ね思ったように飛んで当たる。

無論、悪天候や、戦場での精神の余裕は別の話だが。


特にヴォルカは連射クロスボウの特性を生かすべく、射撃姿勢の研究まで始めていた。

なるべく、視線を外さずに、弦を引く方法などを考えているようだ。


オーリアのほうは的に当たるのが楽しいようで、何発も繰り返し撃っている。

女性の腕では弦を引くのには苦労しているようだが。


クロスボウの訓練を初めて3日ほど経過したが、2人とも基本操作は出来るようにはなっていた。

そんな時、迅代の元に伝令がやって来た。

魔王軍討伐部隊の司令部に出頭しろとの事だった。

『あの二人はまだ戦場には出せない、魔王軍の討伐任務であれば断ろう』

迅代はそう決めていた。


魔王軍討伐部隊の司令部には、攻撃部隊、魔法支援部隊、支援部隊、補給部隊、輸送伝令部隊の各指揮官が集められていた。

『これは、本当に出撃かも知れない』

迅代は集められている面々を見て考えた。


部屋の奥には司令官であるボーズギア皇子が座っており、両脇に参謀と副司令官が居る。

迅代が来たのを見て、副司令官が口をひらく。

「主要部隊の指揮官が揃われたので、始めたいと思います」

「皇都より南に320クロメルト※離れた、アーロス領の人口300人ほどの村から連絡が途絶えたと連絡が有りました」

※約200km


「アーロスは、魔王軍本隊が居ると思われるズベーレン領の隣に位置しているため、皇国守備隊が配置されています」

「そこで守備隊に様子を探らせましたが、複数の魔物の部隊と、Aランク魔獣のコカトリスの存在を確認したとの事です」

「恐らくは、魔王軍に占領されたものとして、魔王軍討伐部隊で奪還する事となりました」

「村の名前はリスキス、農業主体の村で、特に特徴は無いとの事です」

「出発は2日後、3日ほどの行軍の後に、リスキス村には到達できるでしょう」

副司令官が一拍おいて口を開く。

「何か質問は?」


迅代が手を上げる。

ボーズギア皇子がジロリと迅代を睨む。

「勇者ジンダイ様、どうぞ」

「我がスカウト部隊は、前回の戦いで壊滅的打撃を受け、再編成中です」

「部隊の体勢が未だ整っていないため作戦参加は出来ないものとご承知おきください」


迅代の言葉にうんと頷き、副司令官が発言する。

「わかりました、では、スカウト部隊は」

「待たれよ」

副司令官の言葉の途中で、ボーズギア皇子が口を挟む。

「スカウト部隊も参加する事とする」

ボーズギア皇子は迅代を睨んで言う。


「司令官閣下、しかし我が隊は、部隊の総勢である新兵2名がまだ訓練している状態です」

「作戦行動はまだ行えませんし、足手まといになるだけです」

迅代も負けずにボーズギア皇子を睨んで言う。


「スカウト部隊を戦力として期待しているわけでは無いが、何事も経験」

「新兵の錬成中という事であれば、実戦行動の一端でも経験しておくことは大きなプラスとなる」

「なあに、戦闘をさせようと言う訳ではない」

「我が部隊の一員として同行する、それだけの事も、断るとは言うまい?」

ボーズギア皇子が見下すような視線で話す。


迅代は、ボーズギア皇子がスカウト部隊が参加しないと言い出すことを見越して、考えて来た言いようだと感じた。

『こう言われてしまえば、同行できないとは言えない』

『何か考えているのかもしれないが、戦闘には参加させないぞ』

迅代はボーズギア皇子の言葉をこの場では受け入れることにした。

「わかりました。部隊主要員の皆さまの前でも、申しておきますが、スカウト部隊は部隊として機能できる能力は持っていません」

「特に戦闘は行えませんので、知って置いてください」

迅代はぐるっと部屋のメンバーを見回して言う。


素直な物言いに部屋にいる確認は無言で頷く。

ただ一人、ボーズギア皇子を除いては。

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