「初めての検討会」
迅代は銃の事について聞いてみたいと言う事で、クロスフィニア皇女からの招待を受けた。
王族用の謁見室にクロスフィニア皇女とセレーニア、そして、4人の人物がいる。
4人の人物は、いろいろな分野での宮廷学者で、銃の実現可能性について参考意見を述べるために招待された。
武具、魔法、錬金術、アーティファクトのそれぞれの専門家だと言う。
簡単な自己紹介を行った後、早速、銃についての議論に入る。
まずは、迅代が銃について説明する事となった。
「銃とは主に個人で装備する武器です」
「筒状の金属棒から、金属で出来た弾丸を火薬で撃ち出します」
「銃が誕生した当初は単発で、1発撃つごとに弾込めし直していましたが、機構が発展し、あらかじめ何発も弾を込めて置けるようになりました」
「これにより瞬時に何発も弾が撃てるようになりました」
「弾丸の威力は、鉄の板なら1リング※ほど、木の板なら8リング※※ほどを貫けます」
※0.6cm ※※4.8cm
「種類は、拳銃と呼ばれる近距離目標用の片手操作が可能なもの」
「短機関銃と呼ばれる近距離目標用の連射が可能なもの」
「突撃銃と呼ばれる、中距離目標用の連射が出来、威力が強いもの」
「狙撃銃と呼ばれる、中長距離目標用の言葉通り狙撃を行うもの」
「機関銃と呼ばれる、中長距離目標用の長時間の連射が出来、威力が強いもの」
「ざっとこれらの種類が用途、任務に応じて使い分けられるという形です」
「ここで言う近距離とは100メルト、中距離とは500メルト、長距離とは1000メルト以上※という感じです」
※それぞれ60m、300m、600m
「私が居た世界では、魔法は有りませんでしたので、全て機械と化学でこれを実現していました」
「サイズは拳銃で手のひらサイズ、突撃銃でクロスボウぐらいのサイズですね」
「ざっとした説明は以上です」
「まず、今の説明で分からないことは有りますか?」
迅代は居並ぶ人たちをぐるっと見回す。
特に専門家の4名は難しい顔をして、押し黙っている。
その様子を見て迅代は少し後悔する。
『皇女殿下の御前でやるべきでは無かったか・・・」
『御用専門家としては、皇族の前では分からないものでも、分からないとは言いずらい・・・』
『もう少し虚心坦懐に話さないと、銃の真の姿は理解できないだろう』
「あの、科学とは何でしょう?」
専門家が押し黙る中、セレーニアが口火を切ってくれた。
『さすがセレーニアさん、素人スタンスで聞いてくれたか』
迅代はセレーニアのほうに向き合いながら説明する。
「科学とは、そうですね、錬金術に近い物ですね」
「物を調合して新たな効果の物を作ったり、加工や変質させて特性を変えたりする技術です」
すると錬金術の専門家が話に入ってくる。
「銃ではその化学がどう使われているのかね?」
『さすがに錬金術と言われて黙っていられないか』
そう思いながら質問に答える。
「例えば火薬です」
「弾丸の性能は火薬の性能に大きく依存します」
「先に説明した威力を出すには、例えば1.5リング※ほどの弾丸に、無煙火薬という調整された火薬を使います」
※0.9cm
「無煙火薬が発明される前は、黒色火薬が使われていて、中距離以上では1リング※の鉄板は貫けなかったでしょう」
※0.6cm
ふむふむと聞き入っていた錬金術の専門家はそれを聞いて言う。
「わが国でも火薬を調合したという研究文献を見た事が有るが、非常に希少なビジューレという薬剤が必要」
「その保有量は国立錬金術院でも1瓶しか保有しておらん。恐らくこの国では錬金術院でしか保有していないだろう」
迅代はそれを聞いて落胆する。
『大量生産が必要な弾丸の生産には、大量の火薬が必要になるだろうが、生産のための薬剤が少量しかないとは』
『しかも文献で見た程度では、今作ることが出来るのは、初歩の黒色火薬ほどのものだろう』
「そういえば手のひらに収まる拳銃というものも、同じぐらいの威力と連射が出来るのかね?」
今度は武具の専門家が聞いて来た。
「威力は近距離に限り、同等程度の威力が出せます。無論弾丸の性能次第ですが」
「あと、連射は、パン、パン、パンという程度の連射は可能です」
「標準的なもので12発ぐらいは弾丸が装填できます」
迅代が自動拳銃を想定した発射速度を口述で再現する。
「そんな速度で?本当に手のひらサイズなのかね?」
武具の専門家が疑いの目で聞く。
「そうですね、0.02リング精度の硬質鋼材の加工技術と、焼き入れ技術、バネなどが揃えば可能です」
※約0.1mm
「0.02リング!そ、そりゃあ名工を揃えれば出来なくはないが・・・」
加工レベルの高さに武具の専門家も二の句が継げないでいた。
『今のこの国のレベルでは、冶金技術も加工技術も科学技術も、何もかもが足りていない』
『おまけに必要資材も足りていない』
『それを克服できるのか?』
迅代はやはり銃を作ると言うのは無謀なのではないかと思い始めていた。




