「新隊員」
弔いは、死者を想う生者の儀式である。
弔う事で、死者への想いに区切りをつけ、生者としての営みを続けるための。
部下の葬儀から3日経過した日、スカウト部隊の補充人員が決まったと連絡が有った。
迅代は早速、補充人員を集めて、今後の事を考えることにした。
それから2時間ほど後、迅代の前には2人の男女が整列していた。
男のほうはヴォルカ、女のほうはオーリア、共に近衛隊に、いや、軍隊に入って最低限の訓練のみ受けた状態の二年兵だ。
元部下であるグリンも二年兵だったが、3か月ほど輸送伝令隊に所属し、任務をこなしていたが、この二人は初の部隊配備だ。
『これは・・・どうするべきか・・・』
迅代はまた頭を悩ませていた。
優先するべきは何か。
二人とも、乗馬しての移動は出来ないと言う。
それから、連射クロスボウの訓練も必要だ。
この二つのスキルは、スカウト部隊には必須のものだ。
しかも、魔王軍討伐部隊はいつ出撃命令が下るか分からない。
魔王軍が出現し、一定以上の危険度が有ると判断されれば、出撃命令が下るだろう。
『皇女殿下やセレーニアさんには悪いが、3か月ほど部隊は出撃不能としてもらうかな』
『もう、部下を失うのはごめんだ』
迅代は二人を前に、少し考え込んでしまった。
「勇者ジンダイ様、我々は何をすれば良いのでしょう?」
オーリアが黙り込んでいる迅代に声をかける。
その声に迅代は右手を上げて、わかったという意思表示をして言った。
「あー、まず、呼び方はう勇者ではなく隊長としてくれ」
「わかったか?」
二人ともうなずく。
「軍隊だぞ、分かったのか?」
迅代は二人を睨みつける。
「はい、隊長!」
二人は返事をする。
「よろしい。まずはそうだな・・・剣術の腕を見せてくれ」
そう言って迅代相手に、簡単な剣術の、稽古を、ひとりひとりに行う。
両名とも、装備しているのは近衛隊支給のショートソード、剣を交わした感じ、素人に毛が生えたような腕前だ。
また迅代は頭を抱えてしまった。
『剣術も少しは出来ないと、せめて自分の身が守れるぐらいは・・・』
二人は剣術の稽古でもういっぱいいっぱいのようだ。
『これは、体力にも不安が有るな・・・』
昼までには少し時間が有るが、一旦、昼休憩とし、午後からここに集合するように伝える。
昼からは迅代は少し鬼になる決意をした。
午後に再度集まった二人に迅代は言った。
「ヴォルカ二年兵、オーリア二年兵、諸君らはもう少し基礎の訓練が必要と見た」
「これから少しの間、基礎体力訓練を中心に行ってもらう」
迅代の言葉にヴォルカは嫌な顔をする。
彼は近衛隊には入隊志願したが、あまり運動は得意ではなく、将来のための資金作りが目的だった。
オーリアのほうは、迅代の言葉に反論する。
「失礼ですが隊長、わたしは初年兵の時にすでに基礎訓練は終えています」
「再び基礎訓練をするより、新しい事を教えてもらうほうが良いです」
迅代はあきれたよう口ぶりで言う。
「オーリア二年兵、聞いてなかったのか?」
「俺は君たちが部隊の体力基準に達していないと見たんだ」
「すなわち、今の体力では、作戦行動も行えない、わかったか?」
「では、部隊の基準の体力とはどの程度でしょう?」
まだ食い下がるオーリア。
それにカチンとくる迅代。
『えらく威勢のいい二年兵だな、普通隊長に言うか?』
「そうだな、兵練場グラウンドを走って10周して余力が有る程度だ」
兵練場グラウンドは1周すると2kmほどは有る。すなわち20km走るという事だ。
「・・・」
オーリアと、それを聞いていたヴォルカは口を開いて何も言えない。
確かに初年兵の時は走らされたが、これほど走って余力を求められた事は無い。
「では、行くぞ、俺も走るから付いてこい」
迅代は走る体勢で二人に言う。
二人はしぶしぶ、迅代の後ろをついて走り出した。




