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「再編成」

この日、城の迎賓館では晩餐会が行われていた。

魔王軍討伐部隊の、いや、実質、ボーズギア皇子の凱旋パーティーだった。

そして、その内実は、ボーズギア皇子派の忠誠心を示すためのパーティーであった。


晩餐会会場の上座には、ボーズギア皇子が立派な椅子にふんぞり返っている。

その横には少し控えめにではあるがリューベナッハ妃とヴィッツグリュン皇子も座っていた。

国中から名のある貴族が訪れ、来客たちはボーズギア皇子に挨拶をした後、流れ作業のように、リューベナッハ妃とヴィッツグリュン皇子にも挨拶をする。

なお、ヴィッツグリュン皇子は成人していないため、パーティーの正式な参加者では無かった。


そしてボーズギア皇子の横には皇国の実力者がたむろしていた。

無論、ボーズギア皇子派の面々だ。

国家運営の実質トップである内務大臣をはじめ、国防大臣、財務大臣という国の中心をつかさどる人物たちだ。

彼らは、ボーズギア皇子派であり、リューベナッハ皇妃派であった。

彼らは相変わらず、ボーズギア皇子、そして、リューベナッハ妃のご機嫌を取るお世辞を言う。


「さすがは、近衛隊第一部隊で気を吐いておられた皇子殿下。魔王軍をものともしないとは、恐れ入りました」

国防大臣がボーズギア皇子に向かって敬服して見せる。


「いやいや、あの3勇者様を手足のように使う器量が素晴らしい。これは我が皇国の未来は安泰となるでしょう」

財務大臣も負けじと美辞麗句を並べる。


「お二方とも、ボーズギア皇子がこのように立派な御人に育ったのも、すべてリューベナッハ皇妃殿下の教えの賜物」

「リューベナッハ皇妃殿下の偉業とも言えますぞ」

内務大臣はリューベナッハ妃にも気を使い、賛辞を述べる。


ボーズギア皇子は気分良く、取り巻き達の賛辞を浴びながら酒を飲んでいた。


自分は生まれながらに人の上に立ち、成すこと全て賞賛されるもの、そういう形で皇族の役目を理解していた。

皇族が居なければ国家が成り立たず、貴族や下々の者たちも進む道に迷う。

すなわち、皇族こそ国家なのだと。

そして、その国家のかじ取りを行うのは、正に自分が相応しいのだと。

皇妃に幼いころからそう教えられたボーズギア皇子は、その論理を全く疑う事無く育ってきていた。


宴も中盤に差し掛かったころ、リューベナッハ妃が口を開いた。

「クロスフィニアさんは、結局、今日のこの場には来ないようですね」

「招待状はお出ししたと思うのだけれども、ね」

クロスフィニア皇女の名前が出て、一瞬その場が凍り付く。


「なんと、クロスフィニア皇女殿下は招待されたにもかかわらず、ご出席なされなかったのか」

「魔王軍が完全勝利したという重要な祝賀の席であるのに」

ここは頑張り時と、国防大臣が少し高めに声で言う。


「クロスフィニア皇女殿下は今、皇国が一丸となるべき時勢であるのに、どうしたお考えなのだろうか」

財務大臣が引き取るように言う。


「我々貴族は皇族の方々のお考えには付き従う所存ではありますが、全国民挙げて喜ぶべき慶事にご参加なされないようでは、大人げないですな」

内務大臣は批判めいた事まで言いだす。


「あら、大人げないから、今日こられなかったのかしら?」

「先日、お茶をご一緒したときには、聡明な姫に育っておられましたよ」

リューベナッハ妃がたしなめる。


「これはこれは、言葉が過ぎました」

「宴席の事とは言え、失礼いたしました」

内務大臣はあわてて訂正する。


「ですが、ボーズギア皇子」

「クロスフィニアさんは、ボーズギア皇子は勇者様に対する態度を改めよと申していましたよ」

リューベナッハ妃の言葉に一同が驚く。


「私が態度を改めよ?」

ボーズギア皇子が発したその言葉には少し怒りの色が混じっている。


「そう、公衆の面前では、勇者様について、もっと上位のお方らしい扱いを心がけよと」

「あらぬ誤解を受けないためにも、呼び方などは今後考えたほうがよろしいですね」

ボーズギア皇子は母にたしなめられて、黙ってしまった。

『勇者を上位の方として扱う・・・3勇者はともかく、出来損ない勇者も?ありえない』

ボーズギア皇子の中で迅代の事がわだかまる。


「しかし・・・」

「そんな事をクロスフィニアさんが言ってしまうのも、強大な力を持つ3勇者様を羨んでの事かも知れません」

リューベナッハ妃は優しい目をして言う。

「クロスフィニアさんが今日、顔すら出さなかったのは、簡単にはこちらに組しないという事なのでしょう」

「ボーズギア皇子、これからはクロスフィニアさんの行動にも注意を払うのですよ」

リューベナッハ妃は、ボーズギア皇子とこの場で取り巻いている皇国の重臣たちが、今後取るべき方向性を暗に示した。


翌日、魔王軍討伐部隊の再編成の辞令が発せられた。

そうは言っても、大きな部隊の編成を組み替えるわけでは無く、壊滅した迅代が指揮するスカウト部隊の兵員補充が行われたのみだった。


相変わらず、指揮官の迅代の配下は2名で、今回は、2年兵が2名と言うひどい物だった。

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