「凱旋」
魔王軍討伐部隊は、全部隊がまとまって皇都に戻って来た。
皇都のメインストリートには、通りを埋め尽くすほどの民衆が集まって魔王軍討伐部隊の帰りを迎えた。
すでに、魔王軍の拠点を軽微な損害のみで壊滅させたと言うニュースは民衆に広まっていた。
これは無論、魔王軍の出現を過剰に恐れさせない国の施策として広めさせたものであったが。
効果は絶大で、民衆の心の底にわだかまっていた不安をひと先ずは払拭する結果となった。
皇都の正面の門から、司令部部隊を先頭に、攻撃部隊、魔法支援部隊、支援部隊とメインストリートに入ってくる。
その部隊の勇者、兵士たち、そして司令官である皇子に、民衆は惜しみない拍手と歓声をかけてくる。
戦闘の司令部部隊のボーズギア皇子は満面の笑みをたたえて、居並ぶ民衆に手を振っている。
民衆が正に統率者としての自分に期待し、賞賛している。
自分の指揮する部隊が魔王軍を蹴散らしたのだ、という自負がそこにはあった。
しかし、その完全勝利は、3人の勇者の無類の強さと、スカウト部隊の情報、そして、犠牲が有ったからこそだった。
そんな事は全く考えもせず、ボーズギア皇子は自分の指揮能力に自信を持ったようだった。
隊列の一番最後に、輸送伝令部隊が進む。
その馬車の一つに迅代はうなだれて座っていた。
馬車の荷台には、ルーフとグリンの遺体も載せてある。
『グリンの婚約者と、ルーフが好きだった女性に、彼らの最後を話さないといけないな』
民衆たちの喧騒の中で、迅代は考えていた。
魔王軍討伐部隊はそのまま城に入り、皇帝への戦勝報告セレモニーを行った。
ボーズギア皇子は自慢げに勝利を報告し、皇帝、皇妃のねぎらいの言葉を受けた。
そして皇帝はこの戦いで戦死したものに、叙勲を与えるとともに、遺族には恩賞を与えると宣言した。
魔王軍討伐部隊帰還のセレモニーが終わり、集まった観客も帰った後、城の一角に戦死者が安置された。
今日一日、ここに安置された後、翌日には火葬されて皇国戦士の墓地に合祀される事になる。
迅代はずっとこの場に立ち尽くしていた。
昼過ぎ頃に、グリンの婚約者のグレーテがやって来た。
グリンの棺の前でわんわんと泣いて、名前を呼んでいた。
グレーテが泣いているさなかに、ふくよかな婦人が小さな女の子の手を引いてルーフの弔問に現れた。
ルーフは身寄りは無く、誰も弔問に来なかったので、彼女が言っていた愛しい人なのだろうと考えられた。
「ルーフのだんな、結局、死んじゃったんだね」
「兵隊はみんな死んじまう。不死身の永年兵のあんたでも・・・」
キャリルは女の子の手をぎゅっと握って涙を拭いた。
「この人、お客さん?」
女の子がキャリルに聞く。
「そうだよ、とっても良くしてくれたんだ」
「たくさんプレゼントもくれた。楽しくお話もしてくれたんだよ」
「一緒にお祈りしようね」
「うん」
キャリルと女の子は、ルーフの棺にお花を手向け、長い時間祈りをささげて帰って行った。
それから泣き続けていたグレーテも、泣き疲れたようで、やがて叔父さんと叔母さんに連れられて帰って行った。
夕方、城門が閉まったころに、皇女とセレーニアが弔問に訪れた。
迅代は半日以上、ルーフとグリンの棺の前に立っていた。
「ジンダイ様、もう、お休みになられては・・・」
セレーニアが声をかける。
「俺は・・・」
「俺は、二人を死なせてしまった」
「俺の指揮で、二人を」
迅代は自分を責める気持ちを払拭できないでいた。
更に、グレーテの泣き顔、キャリルの祈る姿、思い返すたびに迅代の心に痛みを与える。
「俺は、勇者としての力もなく、普通の魔物に苦戦し、二人を助けられなかった」
「俺は・・・」
また無力感を思い起こし、悔恨の念が浮かぶ。
「上に立つものは、その重みを背負って前に進まないといけません」
クロスフィニア皇女は3つ有る棺にひとつひとつに花を手向けながら言った。
「皇女殿下、私は思いあがっていたのかも知れません」
「勇者らしい任務で無ければ、貢献できると」
「しかし、今あるのは、二名の部下が共に戦死するという結果です」
迅代は憔悴した顔を俯かせていう。
「ジンダイ様は全力を尽くして指揮を執った、その指揮に部下全員が応えた、そう考える事も出来るのではないでしょうか?」
迅代の自虐的な言葉に、部下の想いを知るべきと思い、クロスフィニア皇女は言った。
「確かに、グリンは実直で軍隊や戦いと言うものを全く知らない新兵でした」
「でも、彼は必死に知識や技術を吸収し、立派な兵士として戦いました」
迅代は涙ぐみながら言う。
「ルーフはズルをするのが得意で、本当に一緒に戦ってくれるのか不安でした」
「でも、最後は俺のために陽動を買って出てくれて、魔物に立ち向かってくれました」
「本当に、良い部下でした」
迅代の涙が止まらなくなっていた。
「皇女殿下、俺が戦うためには、もっと力が必要です」
「そうでないと同じ事を繰り返すことになるでしょう」
「まずは銃と言う武器を手に入れたい。お力を貸してもらえませんか」
迅代は皇女に向き直って、頭を下げる。
「わかりました」
「ジュウと言う武器がどのような物か解りませんが、武具の製造技術はもとより、錬金術、魔法など利用して作れるものかを考えましょう」
「わたくしも、セレーニアもいろいろな文献などの知識で協力いたします」
クロスフィニア皇女は凛とした表情で、迅代に向かって言った。
迅代は皇女に跪き言う。
「ありがとうございます。皇女殿下」




