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「無力」

陽が落ちようとする頃、魔王軍残敵の掃討も、概ね終えようとしていた。

川沿いに作られた魔物の防御線も、後ろからの攻撃は想定されておらず、勇者と攻撃部隊、そして魔法支援部隊の攻撃にすぐに攻略された。

高見やぐらのほうも、空からの攻撃が懸念されたが、ハーピーが1体居ただけで簡単に打ち取れた。

そしてその下にいた地上部隊も、ロングボウの遠距離攻撃で戦力が撃ち減らされ、魔物たちは森に四散して逃げ出し、個々に打ち取られていった。


ルーフとグリンの遺体は、魔王軍討伐部隊の集結地点となっている、元魔王軍拠点の広場に安置されていた。

遺体は魔法士に保存の魔法をかけてもらい、王都までの輸送も行ってもらえるらしい。

遺体の輸送を担当する輸送伝令部隊は2人が元所属していた部隊なので、顔見知りも多かった。

手が空いたものが2人の亡骸を拝みに来ては死を悼んでいた。


この戦いでの死者は3名。

戦闘で死んだのは、ルーフとグリンの2名で、もう一名は、支援部隊の1名が落馬により死亡したようだった。


迅代は本隊の戦いの経緯を攻撃部隊の指揮官に聞いた。

『結局、俺たちが敵のハーピーも、パトロール隊も引き付けた格好か』

期せずして、魔物の直接攻撃による討伐数は共同撃破も含めれば迅代が一番多かった。

ヴィンツもザーリージャも大物は倒したが、それほど多くの魔物に相対したわけでは無かった。

ただ、アリーチェの大規模魔法は、一撃で20体ほどの魔物を葬ったようだ。

これは初期の攻撃部隊の突入に大きな助けになった。


話を聞く過程で拠点後方から撃ち込まれた火矢の事を聞いてみたが、攻撃部隊の指揮官は知らないようだった。


しばらくして、ボーズギア皇子より、報告に来るように命令が有った。

今、迅代はボーズギア皇子には会いたくない気分だったが、命令だ、仕方がない。

広場の真ん中あたりに設営された、司令官用の天幕を入る。

「スカウト部隊指揮官、ジンダイ参りました」

迅代はそう言いながら天幕の中をぐるっと見回す。


真ん中のテーブルにボーズギア皇子が座っており、その両脇に取り巻きの兵士がいる。

いつもの図柄だ。

「ご苦労、ジンダイ殿。大変苦労が有ったようだねえ」

一応ねぎらいのような言葉を発する。

しかし内心では、違ったことを考えている。

『なぜ、五体満足で生きている!2人の部下を盾に生き残ったか!』

ボーズギア皇子は自分の尺度で迅代が無事でいる事の理屈を考える。


「部下の2人は戦死しました。彼らは勇敢に戦って戦死しました」

「司令官閣下からも、彼らの働きにご高配を、頂ければ、と、存じます」

迅代は悔しさであふれそうになり、声が震えていた。

そんな迅代の姿を、ボーズギア皇子は上から見下ろすように見る。

『勇者ジンダイを助けた兵士か・・・まあ、国民の士気の鼓舞のために使わせてもらうか』

「あい分かった」

「救国の英雄として、丁重に戦士の墓地に葬ろう」


「ありがとうございます」

「ひとつ、聞いても良いでしょうか?」

迅代がボーズギア皇子の目を見て言う。

「なにかな?ジンダイ殿」

ボーズギア皇子は姿勢も変えないまま迅代を眺める。

「戦闘開始の少し前、敵の拠点の後方から火矢の攻撃が有りました」

「これは、作戦の一環で実施されたのでしょうか?」

迅代の瞳に鋭さが増す。


一拍おいて、ボーズギア皇子が口を開く。

「ああ、あの陽動作戦であるか」

「見事であったであろう」

「わたしが敵の情勢を喝破し、一部部隊を振り分け、行わせたものだ」

「その計略は見事に的中し、今回の作戦の勝利に大きく作用した」

「今回の初陣での完全勝利は、正にこの差配によるものであろう」

ボーズギア皇子が自慢げに語るが、これは完全な嘘であった。

迅代達の進行ルートを使わなければ、安全に魔王軍拠点の後方になど、進出できるはずが無かった。

最初から迅代達のスカウト部隊の後をつけて行ったものだった。


迅代の背中が一回り大きく膨らんだように見える。

「その、陽動作戦で、我が隊は魔物の襲撃を受けました」

「我々が居る事を知っていて、仕掛けたのですか!?」


迅代の剣幕に少し面倒そうな顔をして、ボーズギア皇子が答える。

「作戦の一環である、その結果としてスカウト部隊が巻き込まれる状況が生まれたとしてもしようが有るまい」


「我々を囮にしたと!?」

迅代の形相が怒りに代わる。


「囮とな?人聞きの悪い」

「あくまで敵の偶然の動きでそうなった事」

「配下の部隊を潰すような戦術は取ったりはせん」

ボーズギア皇子は涼しい顔で言う。


「しかし!我が部隊が敵の後方に居て、連絡もなく攻撃が有れば、おのずと!」

迅代の火のような怒りに、ボーズギア皇子は口を挟む。

「なら、勇者ジンダイ殿が魔物の1部隊など屠って、切り抜ければ良いではないか」

「勇者であるならその程度の事出来よう。なあ」

ボーズギア皇子はそう言うと、左右の兵士たちに聞くようなそぶりをする。

「確かに、勇者ヴィンツ様は魔物の集団など瞬時に細切れにされましたぞ」

「うむ、勇者ザーリージャ様はあのバジリスクをおひとりで討伐なされたぞ」

周囲の兵士たちはボーズギア皇子に調子を合わせる。


迅代は無力感を感じた。

『俺が勇者として力不足であるから、ルーフとグリンは戦死した』

『それは、悔しいが、否定できない』

『この戦いを続けるには・・・俺には銃のような武器が必要だ』

ボーズギア皇子の取り巻き達が口々に勇者の働きを話すのを聞きながら、迅代は自分の無力さに打ちひしがれていた。

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