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「悔恨」

大規模魔法の後、魔王軍拠点付近が騒がしくなった。本隊の攻撃が始まったようだった。


迅代は叩き飛ばされたルーフの所に駆け寄る。

ルーフは頭や手足が有らぬ方向に曲がっており、動かない。

「ルーフ!」

迅代が呼びかけるが反応は無い。

ルーフの首筋に手を当てる。

脈は感じられなかった。

「・・・ルーフ・・・」

あれほど生き残る事に長けた永年兵のルーフだったが。

トロールの巨体から繰り出された木の打撃にはどうしようもなかったようだった。

「あれほど戦わないと、言ってたじゃないか・・・」

ルーフの亡骸を見て、つぶやく。


今度は翻ってグリンのほうを見る。

まだ足場の横にぶら下がっている。

「グリン!」

しかし、呼びかけに対して、その体は身動き一つしない。

迅代は足場の登り道に駆け寄りながら、叫ぶ。

「おい、グリン!」

「返事をしろ!グリン!」

近くまで登った迅代はグリンに手をかける。

ゆさぶっても反応は無い。

「グリン!」

見えたグリンの横顔は蒼白で、口から血を流していた。

「おい、グリン!」

グリンには矢が4本刺さっていた。

一見、どれも致命傷には見えなかったが、一本の矢は下腹部から斜めに深く刺さっていた。


抱えて足場に戻るより、降ろしたほうが早いと考え、動かないグリンを抱えながら降りる。

足場から落ちないようにしがみついているように見えた腕は力もなく、体を預けた山の斜面が摩擦と体重でバランスしたため落ちなかったようだ。

「グリン・・・くそ」

かかえるグリンに動きや反応は一切ない。

地上に降ろした迅代はすぐにグリンに回復薬をかけ、無理やり飲ませる。

そして脈を見てみたが、脈は止まっていた。


「なぜだ・・・グリン!」

グリンの屈託のない笑顔を思い出す迅代。

だがそこに居るグリンは険しい顔のまま、顔面蒼白のままであった。


足を切られ戦意を失ったトロールが森の中にはいずりながら逃げていくのが見える。

しかし、そんな事はどうでもよかった。


迅代は、死んでしまった馬の荷物からテントを取り出し、地面に敷き、二人の死体を寝かせる。


『俺は・・・』

『俺は、間違ってしまったのだろうか』

『こんな作戦は受けるべきでは無かったのか』

迅代に悔恨かいこんの念が浮かぶ。


『監視するだけなら3人の部隊でも問題無いと思った』

『だが、想定外の事態を・・・考慮するべきだったのか』

何故、誰が火矢を射かけたのか。

迅代に疑問が浮かぶが、考えがまとまらない。

ただ、今は2人の部下が自分の指揮の下に戦死したショックと、自分を責める気持ちしか浮かんでこない。


この日、迅代が指揮をするスカウト部隊は壊滅した。

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