「死と生と」
3頭の馬を見て、迅代はすぐさま気づく。
『ルーフ、撤退してないのか!』
だが、もう事態は動き出している。
ルーフの支援を無駄には出来ない。
迅代は隙が生まれた魔物の包囲に、ありったけの手札を出して対応する。
「サンダーボルト!」
迅代は周囲に電撃を発生させる。
周囲で包囲しているコボルド達が、電撃に痺れる。
傷を負った左腕は傷むが、更に次の手を打つ。
目標は一番手ごわいと見た槍のオークだ。
瞬間ダッシュでオークの間合いに入る。
迅代の突進に一瞬怯むオーク。
そこにメインのバトルナイフで斬りかかる。
槍は間合いを詰められると穂先を使いづらい。
オークは槍の柄の部分で迅代のナイフの連続攻撃を必死に防ぐ。
その横を3頭の馬が通り抜ける。
ルーフは3頭のうちの真ん中の馬にしがみついていた。
『く!そのまま進めば・・・』
「ルーフ!飛び降りろ!!」
迅代は攻撃の手は緩めず、ルーフに叫ぶ。
馬の通過に防御が甘くなったオークの脇を、迅代は逃さず瞬間ダッシュですり抜ける。
オークの後ろを取った。
ルーフは迅代の声は聞こえたが、馬は全力疾走中なので飛び降りる事などできない。
「む、無理だ、隊長!」
その間にも迅代は槍のオークを後ろからバトルナイフで深く刺し込む。
「グオオオオオオ!!!」
そしてナイフをそのまま上のほうに斬り上げた。
オークは、斬られた傷から大量の血を噴き出して、前に倒れ込む。
後ろを見ていたルーフは迅代の動きを見て、オークを倒したことを確信した。
「やったぜ!!」
そこに巨体のトロールが木の槍を思いっきり3頭の馬に向かって横殴りで振り回す。
3頭の馬はバラバラに宙に舞う。
その中にルーフの姿も有った。
「ドスン!」「グシャ!」
ルーフと馬たちはそのまま地面に叩きつけられた。
「ルーフ!!」
「くそ!」
迅代は後ろからダメージから回復したコボルドが襲い掛かって来るがそれを無視してトロールに向かう。
2体居るうちの後ろの一体が木の槍を投げて来た。
しかし、迅代は横に避けてトロールへの突撃は止めない。
後ろから襲ってくるコボルドはトロールが投げた木の槍で足止めされた格好となった。
前のトロールは、ルーフを薙ぎ払ったのと同じように、木の槍を横に大きく振り回してきた。
迅代は、木の槍が直撃する瞬間に木に当たらない際どい高さで宙に舞った。
そして振り切ったトロールの腕の隙間から巨体の懐に突入し、バトルナイフを足の脛に突き立て、引き裂く。
「グォオオン、グォオオン」
トロールが響くような声で悲鳴を上げる。
トロールは片足では立てず、膝をつく。
それでも戦意は衰えず、今度は木を手放して、返す平手で迅代をはたこうとした。
その手に迅代はバトルナイフを両手で持って突き立てる。
「ギュオオオン、オオオン」
トロールは痛みに耐えきれず、手を引く。
迅代が前のトロールと戦っている間に、後ろのトロールが、迅代を捕まえようと両手で覆いかぶさってきた。
そこを横目で見ていた迅代は魔法を使う。
「サンダーボルト!」
多数の電撃が周囲に舞う。
迅代に覆いかぶさろうとする手が電撃にさらされトロールは一瞬手を引っ込める。
『トロールはリーチが長い。』
『懐に潜らないと倒せない。』
そう考え、手を引いた瞬間に後ろのトロールのほうに突撃する。
そんな迅代に反応して右足を出して蹴ろうとするトロール。
瞬間ダッシュでその足をよけ、そのままその足のかかと部分にナイフを深く差し込む。
「ギュオオオオン」
トロールの悲鳴を聞きながら斬り抜いて腱を切る。
トロールは立っていられなくなり横転する。
「ドスン!」
巨漢のトロールが倒れ、地響きのように揺れる。
ふとコボルドたちはどうしたかと見てみたが、戦えそうなやつは残っていなかった。
おそらく動けるコボルドは皆撤退したのだろう。
他の魔物たちも、死んでいるか、瀕死の状態か、動けない状態かだった。
「ドオオオオオオォォォン」
突然、敵の拠点辺りで大きな爆発音、そして上昇気流に乗った噴煙が舞い上がっていた。
勇者アリーチェの大規模魔法「スレッジャーギーム」の発動だった。




