「孤立」
迅代は監視場所の山肌の一角で、じっと敵の拠点を眺めていた。
無論、集中力を使っているわけでは無い。
ぼんやりと眺める感じだ。
だが、異変が起きればすぐに気づけるように。
グリンのほうをちらっと見ると、集中力が切れて、うつらうつらしているようだ。
ここに来て3時間ほど、集中力がなくなっても仕方がない。
だが、あのグリンも戦場に慣れて来たのか、と考えると、迅代はすこし感慨深かった。
『まだ、もう少し時間は有る。すこし緩んだ状態で置いておいてやるか』
迅代はそんな事を考えながら、視線は拠点に向けていた。
すると、森に中から一筋の光が拠点に吸い込まれていく。
『なんだ?』
迅代は目を凝らす。
丁度、今の見張り場所から50mほど下の森の中から、再び光の筋が現れる。
それは、2本3本と・・・拠点に吸い込まれて行く。
拠点には数条の煙が上がる。
『火矢か?』
『誰が一体!?』
慌ててグリンに声をかける。
「様子が変だ、戦闘態勢を」
グリンは迅代の声に驚き、慌てて自分の装備を確認している。
「た、隊長、攻撃が始まったんですか??」
連射クロスボウを手に持ち、迅代のほうに顔を向ける。
「攻撃・・・だが、想定外のものだ」
「拠点の後方から火矢が撃ち込まれている」
迅代は望遠鏡をのぞきながらグリンに話す。
「本隊がもうここまで来たんですかね??」
グリンにはあまり緊張感が無い。
だが、迅代は異常事態に焦っていた。
『誰が、一体・・・大規模魔法も撃たれていないうちに、拠点の後方から・・・』
はっとする迅代。
「まずい!、急いでここから撤退する!」
「敵がこちらに群がって来るぞ!」
そう言ってグリンのほうを見ると顔面が蒼白になっていた。
「ハ、ハーピーがすぐそこに!!」
「遅かったか!」
迅代はクロスボウを見るが、まだ矢を装填していない。
『油断した』
いくら保護色のテントを被っても、これほど至近距離ではごまかせない。
クロスボウで先手を打てたら良かったが、グリンも矢は未装填だった。
「グリン、装填してハーピーを迎撃!、俺はナイフで接近を阻止する!」
至近距離のハーピーも気づいて、慌てて戦闘姿勢を取る。
ショートボウを持っているらしく矢を引いている。
「ひゅん」
立ち向かう姿勢の迅代のほうに矢を射る。
『こっちに撃つ矢は避ければいい、だが、グリンが狙われると・・・どうする?」
ハーピーは矢を2射ほど撃ったが迅代は避けて当たらない。
ハーピーは「ギュエエエエエエ!」と奇声を上げる。
そうしている内に、グリンの発射体制が整う。
「ひゅん!」
20mほどの距離だ。
十分訓練したグリンの射撃なら外さない。
ハーピーの胸を鉄矢が貫く。
「ギュオ!!」
撃たれたハーピーは墜落していった。
一息ついたと思った迅代達だったが、今度はハーピーが2体現れた。
先のハーピーが奇声で呼び寄せたのだろう。
クロスボウの射撃を見て警戒しているのか、遠巻きで旋回している。
「まずいな、このままでは地上からも魔物が来て、撤退が出来なくなってしまう」
「撃ち落としてみます」
グリンが30メートルほど先で旋回しているハーピーを狙って撃つ。
「ひゅん!」
「ギュエ!」
矢は胴体部位を外したが、足に刺さる。
偏差射撃としては筋が良い。
しかし、2体のハーピーは更に距離を取って監視している。
一体は手負いのため、動きが不安定だ。
次発を装填し、更にグリンは狙う。
「ひゅん!」
しかし今度は当たらなかった。
「よし、俺と2人で同一目標を狙おう」
「準備をする、もし、奴等が接近してきたら援護してくれ」
迅代はそう言うと自分のクロスボウに矢を装填する。
迅代の動きに2体のハーピーはショートボウで撃とうと構える。
そこでグリンが傷を負っていないほうのハーピーに牽制の矢を放つ。
傷を負っていないハーピーは射撃姿勢をやめて回避に移る。
傷を負っているほうのハーピーは矢を射たが、あまり正確な射撃にならず、迅代を狙った矢は外れた。
「よし、準備出来た」
「まずは傷を負っていないほう!」
「はい!」
二人で狙い、それぞれ撃つ。
「ひゅん!」「ひゅん!」
グリンの矢はハーピーの翼に、迅代の矢は太ももに命中した。
「ギュオ!」
撃たれたハーピーは声を上げて墜落する。
「次、傷のほう!」
二人は急いで次発を装填し、逃げるために背を向けているハーピーに撃つ。
「ひゅん!」
またグリンの矢は翼に刺さる。
よろめくハーピーに迅代が狙い、撃つ。
「ひゅん!」
背中に矢が命中したハーピーは、頭から墜落して行った。
見事に3体のハーピーを倒した2人は喜び合う。
しかし、ハーピーの撃退に喜んだのもつかの間、地上を見ると魔物の部隊が集結していた。
まずはトロールの巨体が目についた。
3体は居る。
そして、オークが数体、コボルドが多数・・・
『二人では突破は難しいだろう・・・』
『今は地の利が有るので、すぐにはやられないだろうが・・・』
『圧倒的に不利で、危険な状態なのは変わらない』
迅代はそう考えながら、グリンのほうをちらっと見る。
まだ戦意は有るようだが、圧倒されているようだった。
「今の戦力ではここで籠城するしか無さそうだ」
「本隊の攻撃が始まれば、状況が変わるかも知れない」
迅代はグリンに言う。
グリンはうなづくだけだった、敵との戦力差を考えて声が出ないようだった。




