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「囮」

迅代たちスカウト部隊の一行は2日目の行程で、魔王軍拠点の後方に進出することが出来た。


今日の夜が明ける払暁ふっぎょうの頃、魔王軍討伐部隊の攻撃作戦が開始される。

そして順調にいけば、昼過ぎには勇者アリーチェの大規模魔法を号砲に、魔王軍拠点への全面攻撃が開始されるはずだ。

そこからがスカウト要部隊の本番として、迅代は、ルーフ、グリンに説明していた。


迅代は兵力配置として、敵の動きを監視する要員として、自身と、グリン。

馬と装備の監視要員としてルーフを野営地に残すことにした。


まずは監視場所と野営場所を選定するため、3人で周囲を見て回る。


監視場所は敵の拠点の後方にあるガルム山の岩肌20mほどにある、数名が陣取れる足場になりそうな所を見つけた。

『この場所なら敵が退却するときに、高所からどの方向に向かうかを一望できるだろう』

『ただ、こちらも簡単に降りにくいために、動きは制限されるが・・・』

迅代は周囲の様子を見ながら考える。

『だが、この岩肌ならテントの生地を被れば保護色になりそうだ』

『敗残の少数の敵なら、高所からのクロスボウの射撃で守り切る事も出来るだろう』

迅代はルーフとグリンにここを監視場所とする事を告げる。


敵拠点までは300mほど離れている。

登って見てみて望遠鏡でも観察したが、居住用の建物の屋根は見えるが、魔物たちの様子は分からなかった。


監視場所から降りた時、上空に鳥のようなものが見えた。

ハーピーだった。

グリンがいち早く見つけて、3人は馬を連れて森に避難する。

かなり距離が遠かったため、発見されるのは免れたようだった。

「ふー、あぶねえ・・・」

「寿命が縮むぜい・・・」

ルーフは呟く。


そこから100mほど離れた所に、背の低い木が濃密に茂っている所を見つけた。

ここ野営場所にする事に決めた。

5m四方に木々を刈り込み、上に網状のものをかけて、刈り込んだ枝葉を載せる。

これでハーピーが真上に飛んで来ない限りは直ぐには見つからないだろう。


野営地が完成した後、早目に睡眠を取る事にした。

ルーフに赤いソースを分けてもらい、みんなで食事を摂る。

今日は火も起こさないので水だけで食事を流し込む。

さすがに敵拠点の近くなので、誰も軽口は言わない。

もくもくと食事をし、最初の番のルーフを残して、迅代とグリンは睡眠を取る。


そして、真夜中にルーフと番を交代した後、朝まで2人は翌日の準備を行う。

そして日が昇る前に、ルーフを起こし、朝食を摂った後、2人は監視場所への移動を開始した。

ルーフには、万が一、敵が向かってきた場合には、一人で馬に乗って逃げろと伝えてある。

迅代は、ルーフならそういう事態でも上手く乗り切れるだろうと考えていた。


「もう、始まっていますよね」

移動しながらグリンが緊張した面持ちで語りかける。

「ああ、だがこの拠点に近づくまでは、隠密行動なので分からないはずだ」

迅代が答える。

『作戦が上手くいっていればな』

と心の中で考えたが、不安にさせるだけなので言わなかった。


日が昇る頃に、監視場所に着き、カモフラージュ用のテント生地を広げ、2人の体にすっぽりかけ、頭だけを出す。

山の岩肌は薄い茶色なので、迅代は顔には何も塗らなかった。

そこからじっと待ちになる。

『恐らく、騒がしくなるのは5~6時間ほど後になるだろう。』

迅代はそう読んでいた。


陽が高く昇った頃、野営地でうとうとしているルーフが話し声に気づいた。

『うん?隊長とグリンか?』

そう考えて、野営地の茂みから顔を出してみた。

しかし、2人とは違う身なりに、さっと茂みに身を隠す。


『うん?近衛隊の兵隊みたいだった・・・かあ?』

再び、茂みの中から、相手をよく見る。

確かに馬に乗った近衛隊の兵士だった。

4人ほどいる。

『もう、本隊がここまで来たのか?・・・いや、ここは敵の後方だし、大規模魔法とかも放たれた感じじゃねえ』

『俺たちを信用しないで、別の部隊が送り込まれたってか』

『全く、司令部はふざけてやがる』

ルーフはそう考えて茂みの中に戻りかける。


『しかし、どこに行くんだ・・・俺たちのように監視なら、もっと状況を把握できるところを探すよな』

『奴らは森を進んで行っている』

『敗残兵を始末する・・・いや4名じゃあ少ないだろ』

結局、気になって、4名の兵士の後をつける。


すると4名は馬を降りて、ロングボウを用意しだした。

『なんでえ、攻撃開始と同時に後ろから攻撃しようって腹かよ』

『巻き添え喰わねえうちに戻るか』

そう考えたが、俺たちはどうなる?という考えがもたげる。


4人の兵士はテキパキと矢を何本か用意し、矢先に布を結び、液体をかける。

そして敵地前なのに焚火を起こして、矢に火をつけ始めた。

『え、おい、早いだろ、今から撃つのか?』

ルーフの心配を尻目に、兵士は火矢を最大仰角で敵の拠点に撃ち込み始めた。

一人10本ほど連続で撃ち尽くすと、焚火もそのままにさっさと馬に乗って移動し出した。

『やばい、やばいぞ、これは・・・』

『囮に、された!?』

4人の兵士はさっさとこの場から居なくなった。

ルーフも慌てて野営地に戻る。

『逃げないと、魔物が押し寄せてくる』

『隊長とグリンに馬を・・・』

馬を茂みから連れ出すと、上空にはハーピーが3体見える。


『ひぃぃぃ、やべええ!』

慌てて茂みに戻って隠れる。

茂みから観察すると、監視場所の山肌付近を調べているようだった。

『隊長!グリン!、これはやばいぞ!!』

ルーフはパニックになって、茂みの中で立ち尽くし、頭を抱えながら足がガクガクと震えていた。

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