「侵攻準備」
魔王軍の拠点攻撃の作戦開始は、1日の準備期間の後、払暁の攻撃部隊の行動開始から始まる事で司令官の裁可が下った。
ボーズギア皇子自身が示した作戦方針に沿って、各部隊の指揮官が考案した作戦内容だ。
誰も否定は出来なかった。
各部隊は、十分な休養と、森からの侵攻作戦に備えた装備の準備など、計画に沿って動いている。
そんな中、スカウト部隊はもうやる事が無かった。
スカウト部隊は元々戦力として数えられておらず、一番の目標であった敵戦力の偵察も、もう終えて統合地図と言う形に示したところで終わっていた。
『後は主力部隊の戦闘成果を待つだけか』
迅代がそんな事を思っていると、ガレーネのパーティーとリガルドのパーティーの面々が近づいて来た。
手を上げて挨拶する迅代。
「隊長さん、お疲れ様です」
リガルドが声をかける。
「みなさんのおかげで、スカウト部隊の任務が想定通りに果たせました」
「ありがとうございます」
迅代はみんなに向かって礼を言い頭を下げる。
「ちょっとリスクは高かったが、なんとかこのメンツだから損害も無くやり切れたね」
キノンもこのチームを称える。
「何回かパトロールにぶつかって、ひやひやする場面もあったけどね」
イリナが軽口を言う。
「俺がオトリになって苦労して胡麻化したけどな」
グリーナがツッ込む。
「はははぁ、そうだったね、ごめん兄ちゃん」
イリナが顔を赤くして言う。
「へえ、兄妹なんだ」
ココリが呟く。
「そういえばココリんって年齢近いんだよね?」
ココリの声に反応して、イリナが言う。
「そうかも、17歳、イリナちゃんは?」
「わたし、18歳!ちょっとお姉ちゃんだ」
そんなやり取りを聞いて、キノンが嘆く。
「うわ、ココリんってわたしが呼んだら怒るのに」
ココリは顔をちょっと赤らめて言う。
「だって、キノンさん、すぐ距離詰めてくる感じなんだもん」
「わたしだってココリんと仲良くなりたい~」
キノンは抱きしめるカッコをしてココリに迫る。
「わー、イリナちゃん」
イリナの後ろに隠れるココリ。
そんな風景を見てグリーナとザズ、リボーが笑っていた。
わいわい話す女性陣を尻目に、ガレーネはリガルドに話しかける。
「最初の、演習の時はちょっと、その、棘が有った言い方してしまったかも、です・・・すみませんでした」
その言葉を聞いてリガルドが答える。
「あんた、真面目だねえ、同じ冒険者、張り合っているぐらいが丁度いいさ」
相変わらずさばさばとしているリガルド。
『素っ気無いようだが、意外と仲間思いなのかもな』
そういうリガルドを見て、ジンダイは思っていた。
そこに司令部からの伝令として兵士がやってくる。
「スカウト部隊の勇者ジンダイ様ですね」
「司令部より命令書です」
伝令の兵は命令書を迅代に渡すと、帰って行った。
「めずらしく、スカウト部隊に仕事か」
「いつもは員数外扱いなのにな」
迅代がつぶやく。
そして命令書を一瞥し、少し考えた顔をして、みんなに告げる。
「皆さんとはここでお別れです、本当にありがとうございました」
「スカウト部隊は司令部からの命令で移動します」
「報酬については、依頼書に完了のサインを入れますので、冒険者ギルドで清算してください」
「あと、リガルドパーティーはもう少し森の情報を教えてほしいので残ってください」
迅代は依頼完了のサインを入れた後、ガレーネのパーティーとは分かれた。
そしてリガルドのパーティーとは再び統合地図を前に話をしていた。
「司令部からの命令で、拠点の後方に進出する事になった」
「川の右の森から最も安全に拠点後方に進出する方法を教えてほしい」
リガルドは怪訝な表情をして言った。
「拠点の後方?何しに行くんだ?」
「軍部隊の行動なので詳細は明かせないが、敵の後方の監視任務だ」
迅代は答える。
リガルドは怪訝な表情のまま、グリーナ、イリナと話し合いながら、後方進出のルートを説明する。
「ありがとう、助かった」
「リガルドさん、グリーナさん、イリナさんともここでお別れだ」
迅代は依頼完了のサインを入れる。
「隊長さん、あまりボーズギア皇子を信じないほうが良いぜ」
リガルドはサイン入りの依頼書を受け取りながら迅代に忠告する。
「言っちゃあなんだが、あの兵隊2人じゃあ何も出来ないだろ」
「俺たちを再び雇え。俺たちとアンタならそれなりに戦える」
リガルドは迅代の目を見て言う。
「ありがとう。しかし、この任務で君たちを雇うことは出来ない」
「司令官の許可が出ないからね」
「軍の行動なので詳細は言えないが、敵が拠点の山手に退却した場合の、退却方向を監視をするだけだ」
「戦闘はしないのは今までと同じさ」
迅代はリガルドに言う。
「・・・わかった」
「世話になったな、また、雇ってくれ」
リガルドは、後ろ手を振りながら、グリーナ、イリナを連れて去って行った。




