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「昔馴染み」

ボーズギア皇子は散々な目に遭わされた結果となったが、作戦の大方針が早速決まった事で、部隊としては効率的に準備に動き出すことになった。

当然、スカウト部隊が作成した統合地図を中心に話が進む。

迅代が示した森の比較的侵攻に適したルートも統合地図に示されていた。

各部隊の幹部は統合地図を模写して、自分たちの構想を書き加えている。

正に迅代が目指していた「スカウト部隊の成果」だった。


ちなみにボーズギア皇子は侵攻ルートの詳細を詰める方向で盛り上がっているこの場を尻目に、いつの間にか司令部に戻って行った。

『ボーズギア殿下はあまりに大人げない。司令官がこの場に居なくてどうするんだ』

迅代は呆れてしまった。

『しかし、これは、恐ろしい事かも知れない。もし殿下が部隊の兵員や、本来の目的を逸脱して、個人の考えのみの行動に向かえば・・・』

『いや、まさか、国家の頂点をも目指す皇子、そこまで個人の考えを押し付けないだろう』

『今日、森の侵攻ルートを認めたように』

しかし、迅代は勘違いをしていた。

ボーズギア皇子が今日、森の侵攻ルートを認めたのは、多数派工作に負けたという、ある意味政治色の強い考えによるものだった。

彼の思考には、専制主義的な思考が色濃く有り、部下や国民の苦労や死傷などより、皇国、もっと言えば、皇族がより強く権威を示さなければならない。

皇族こそが国だ、と考えていた。


各部隊の幹部がほとんど集まった場では、だんだんと有機的な部隊連携を考えた作戦がまとまりつつあった。


まずは勇者ヴィンツと勇者ザーリージャを擁する攻撃部隊では、夜明け前に、勇者を先頭に侵攻の主力部隊として川の右側の森から侵攻する。

もし、魔物のパトロール部隊に出くわした場合は、せん滅し、攻撃部隊が侵攻している情報を極力持ち帰らせないようにする。

そして、昼過ぎまでには渓谷に達し、夜までに主力部隊のせん滅を図る。

夜までのせん滅の計画については賭けだった。

敵の主力がどのような兵力かは分からないからだ。

そこは、勇者の力と運に任せるしかない。

もし、敵の抵抗が強力な場合は、作戦の失敗として一旦の撤退をし森の入り口を固める事になった。


そして、その後ろには、魔法支援部隊が続く。

基本的には敵の拠点である渓谷までは、移動に専念する。

攻撃部隊の移動速度に付いて行くため、全員騎馬編成とし、勇者アリーチェも、ジェーナと2人乗りで同行する。

そして、敵の拠点に到達した時点で、大規模魔法「スレッジャーギーム」を放ち、敵の兵力を減らし、拠点の防御陣地に穴をあける。

そこから攻撃部隊の勇者たちが突入し、敵の主力に対し、先制攻撃をかける計画となった。


最後に弓兵の支援部隊だが、川の左側の森に兵力の浸透を行い、勇者アリーチェの大規模魔法が放たれるのを待つ。

大規模魔法が放たれると、状況次第で、川沿いの監視所や、高見やぐらからの兵力派遣に応じて、敵の動きを妨害する支援射撃を行う。

そして、もし敗残兵が川伝いに下ってくれば、これも弓により阻止する。

同時に森の中には、グーゼンテ領の守備隊から協力するために駆り出された部隊を配置し、攻撃部隊や弓兵部隊が退却するような事態に増援として備える事となった。


『大きな戦力配置や作戦は、今の兵力では妥当だろう』

迅代は話の流れにおおむね満足していた。

無理してスカウト部隊をここまで活動させて良かったと思っていた。


そんな魔王軍討伐部隊の各部隊の盛り上がりを端のほうでリガルドが見ていた。

『勇者ジンダイ、今回はうまくやったようだな』

『だが、少し、皇子の行動が心配だ』

『勇者ジンダイはあまり気にしていないようだが、皇族ってのは正論や正義で動くものじゃない』

『恐らく報復を考えているだろうなあ』

意外にも迅代を心配する目で見るリガルド。


作戦の打ち合わせが落ち着いた頃、リガルドに一人の兵士が向かってくる。

「リガルド、か?」

声を掛けた兵士のほうをジロっと一瞥する。

「ふう・・・」

ため息をつくリガルドに、その兵士は更に声をかける。

「本当にリガルドだ、冒険者をやっていたのか」


声をかけて来た兵士は幹部クラスの地位にいるようだ。

両腕に黄色い目立つ指ぐらいの太さの線が2本ぐるっと入っている。

リガルドは目を合わせず、応える。

「ああ、まあな。お前は近衛隊に入ったのか」

兵士のほうも応える。

「ああ、志願した。今は支援部隊の副官をやっている」

「リガルドが居るなら、魔物なんか蹴散らせるな」

しかし、リガルドは否定する。

「いや、俺は、攻撃には参加しない。地図を作るまでが仕事だからな」

兵士は不思議そうに言う。

「お前がそんな事を言うとは、戦いになれば喜んで首を突っ込んでいたのにな」

リガルドは相変わらず目を合わせずに言う。

「もう若くはないんだよ、堅実、それが一番さ」


そんなリガルドに兵士は続ける。

「それは、あの子たちを育てているからか?」

リガルドは面倒そうな顔で返事をする。

「ああ、まあな、もうそろそろ独り立ちが出来る位にはなってきたがな」

兵士は柔和な顔で話す。

「そうか、それは・・・良かった」

「お前が軍をやめるとは思わなかったよ」

「まあなあ、自分の罪はきっちり清算しないとな。それが俺の生き方だからな」

そう言いながら、少し離れた所にいる、グリナとイリーナを見て言った。

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