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「侵攻ルート」

「ボーズギア殿下、ヴィンツ殿、ザーリージャ殿、アリーチェ殿、皆さんお揃いのようなので、魔王軍の拠点に関する情報共有を行いたいと思います」

迅代はこの戦いにおける主要メンバーを揃えられた事は僥倖だと思っていた。

もしかしたら勇者の誰かが来ないことも考えられた。

しかし、これからの戦いの情報と聞いて、なかなか無視できる者は居ないだろうとも思っていた。


「ジンダイ殿、これだけの騒ぎになったのだ、つまらん情報では収まらないと思われよ」

ボーズギア皇子は、怒りを抑えて告げた。


「無論です」

「まずはこれが敵の拠点周辺の情報をまとめた統合地図です」

迅代は、冒険者パーティーたちの集めた情報を詳細に書き込んだ地図を皆に見せる。

この地図を見た将兵たちに感心の声が上がる。

敵情が俯瞰して見られるからだ。

そして、迅代は、ひとつひとつ留意すべき点や気づいた点などを説明する。


「まずは、川周辺なのですが、とても防御が堅い」

「ここ、ここ、それと、こことここ」

「4カ所の監視所が有り、魔物が駐留しています」

「各監視所でオークが数体、トロールが数体、そしてゴブリンが多数です」

迅代は地図のマーキングを指して説明する。


「トロールまで居るのか、厄介だな」

勇者を支援する攻撃部隊の指揮官が側近らしき人物と話している。


「そして、川の上流で森の奥に高見やぐらが組まれていて、高所から周囲を監視しています」

迅代は高見やぐらのマーキングを指して説明する。

「ここには、やぐらの上にハーピーが常時4体ほど居ます」

「高所から異常を発見すると飛んで確認し、対応を地上部隊に伝えるのでしょう」

「この高見やぐらの下にはオークを中心とした20体ほどの魔物が駐留しています」


「ハーピーだけなら怖くないが、多数のオークか・・・」

支援部隊の弓兵の幹部が呟く。


「そして、川の上流、拠点となっている渓谷の手前には、防御陣地が多数あります」

「複数の壕を掘って魔物が隠れているようなので、大規模魔法での攻撃でもかなり生き残るでしょう」

「魔物の種類はゴブリンとオークの混成部隊、そこに何体かのトロールも確認されています」

「恐らく、ここで敵が来れば足止めさせる算段で、拠点から主力を出撃させて反撃するつもりなのでしょう」

そう言って迅代は勇者たちを見る。


「あそこでは魔物が穴に隠れているので、一度にどかーんってやっつけられないかも知れません」

ジェーナがアリーチェに説明している。


「そして、渓谷の中心部なのですが、ここの内情は調査し切れませんでした」

「どれほどの戦力が有るのかも分からない状況です」

「ただ、渓谷の向こう側に付いては非常に防御が手薄です」

「険しく切り立った山肌を伝って攻めることは出来ないからでしょう」


「なんだ、敵の主戦力が分からないのでは意味がないではないか」

ボーズギア皇子が嫌味を言う。

「いや、わからないからこそ、周辺の情報は重要だ、無駄な戦力分散を避けるために」

めずらしくヴィンツが口を開く。

「な、なるほど、そうですな、ヴィンツ殿」

すぐにボーズギア皇子は迎合する発言をする。


ボーズギア皇子をひと睨みした後、迅代が続ける。

「川沿いで分かっている事は以上です」

「あと、森の中ですが、敵の監視所のようなものは無い代わりに、少数の魔物で編成されたパトロール隊が居ます。」

「逆に言えば、それだけの戦力しか割かれておらず、かなり手薄と言えます」

「よって調査した結果では、森の中を通る侵攻ルートを提案します」

「現状の部隊編成のまま森の中から侵攻するのは困難でしょうが、部隊編成や装備を軽量化すれば可能と考えます」


迅代の言葉の区切りで、ボーズギア皇子は笑みを浮かべて話し出す。

「調査ご苦労、ジンダイ殿」

そう言って一拍おいて口を開く。ボーズギア皇子が相手をやり込める時の癖だ。

「だが、侵攻ルートの選定は司令部の専権事項ですぞ」

そう言って、この場にいる人々を見回す。

「魔王軍討伐部隊は、皇帝陛下の部隊、こそこそと森から攻撃するなどと言う、そんなみっともないことは出来ようはずがない」

「魔王軍討伐部隊と、3勇者殿の威光を示すためにも、川沿いを侵攻ルートとして魔物の抵抗など力で排除し勝利する」

「それが我らに課された使命。」

「川沿いの魔物配置の情報は活用させてもらうが、後は、スカウト部隊に出番はない。」

「攻撃部隊、魔法支援部隊の勇者殿たちの活躍を黙って見ていてもらうのが良いと思いますぞ」

ボーズギア皇子は言ってやった感に満足し、顔に余裕が戻って来た。先ほどの怒りの留飲を下げた感じだ。


しかし、周囲の、攻撃部隊の将兵や、弓兵部隊の将兵は表面には出さないがやめてくれと思っていた。

何重にもある防御陣地の真正面にぶつかるなんて、勇者ならともかく、普通の将兵では無傷で済むわけがない。

それなりの死傷者が出る事を覚悟しなけれならないと考えていた。


ボーズギア皇子の言葉に間髪入れずに迅代が言った。余計な事をボーズギア皇子が言わないうちにと。

「ヴィンツ殿、ザーリージャ殿、アリーチェ殿はどう考えるのか聞かせてもらえますか?」

これが迅代の狙いだ。

勇者は一応、ジンダイも含めれは4人、皇子の専横も勇者たちの意見次第で止められるかもしれない。


再びボーズギア皇子の顔がゆがむ。

こう話を持っていかれれば勇者の意見を聞かないわけにはいかない。


ヴィンツがまず口を開く。

「我々の力があの魔物の拠点の戦力に打ち負けるとは思っていない」

「だが、無為に将兵の損耗は避けるべきだろう」

「川から登る侵攻ルートは賢明ではない」


ボーズギア皇子はヴィンツの言葉にほぞを噛む。


ザーリージャは反対意見を述べる。

「川沿いで行くほうが敵を蹴散らすには良いだろ」

「なにか立ちふさがるなら、力で跳ねのければ良いだけだ」


相変わらず唯我独尊、脳筋だな、と迅代は思う。


アリーチェはジェーナと何か話をした後、発言した。

「森から行って魔法でどかーんってやるほうが、早く終わるよね」

「早く終わるほうが、みんなのためだよね」


『アリーチェ殿は意外とみんなの事を考えてるんだ』と迅代は感心した。


「私を含め、3人の勇者が森ルート、殿下と1人の勇者が川ルート、という事ですね」

迅代はさっさと意見をまとめる。

「ボーズギア殿下、いや、魔王軍討伐部隊司令官、この意見にどう判断をされますか?」

「部隊の損害を少なく保つのも司令官の任務の一つと思いますよ」


ボーズギア皇子としては、迅代の事など勇者として認めていない!と考えていた。

しかし、皇帝が正式な勇者として任命したため、それを公に言うことは出来なかった。

しかも、最も力が有るヴィンツを含めた3人の勇者の意見を全く無視するわけにもいかない。


「・・・確かに、勇者殿たちの意見も尊重せねばなるまい」

「敵の拠点への侵攻ルートは森を通ったルートで行う・・・」

ボーズギア皇子は仕方なく、力の無い声で森ルートの裁可を行う。


『覚えておれよ、勇者ジンダイ』

恥をかかされたと感じたボーズギア皇子の心の中では、迅代に恨みのような気持ちがもたげつつあった。

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