「追及」
ボーズギア皇子は、冒険者パーティーの面々を見るなり、憮然とした顔で迅代を問いただす。
「この者たちは何者であるか?仮にも皇帝陛下が下命した直属の部隊、魔王軍討伐部隊の部隊内であるぞ?」
しかし迅代は何もおかしくない素振りで答える。
「この者たちとは、冒険者パーティーの方々の事ですか?」
「彼らは私が雇った者たちです」
「スカウト部隊の任務遂行に大いに役立ってくれました」
平然と答える迅代の態度に、ボーズギア皇子の感情が高ぶる。
「そんな事は聞いていない。勝手に兵員を雇ったのかと言う、事です」
迅代は怒っているであろうボーズギア皇子を尻目に、ルーフとグリンを手招きする。
「すみません、作業途中の部下に命令を・・・」
そう言いながら、二人に耳打ちをし、この場から離れさせる。
「ふん!」
怒っている状況に水を差され、憮然とする。
しかし、皇子と勇者では、本当は勇者のほうが地位的には上だ。
皇帝が異世界からの客人として、同等の権威であると宣言した勇者なのだから。
二人の部下を見送って、迅代はセレーニアから入れ知恵されていた言い訳を話す。
「確かに、雇いました。でも兵員ではありません。」
「部隊の運営にかかわる諸般の作業を請け負ってくれる業者さんですよ」
ボーズギア皇子の顔が赤くなる。更に怒りで頭に血が上ってきたようだ。
「業者!?」
「そ、そんな言い訳が通用するとお思いか!」
「兵員の差配は司令官の権限、それを越権されるのか!」
それでも迅代は引かずに言う。
「確かに兵員であればそうでしょう」
「しかし、物資の運搬や、調理、設営など、兵員外の業者を雇う事は各部隊で普通に行われていますよ」
「今回は、冒険者パーティーの方々に、地図作成の業務を依頼したのです」
「な、なんだ、ですと!?」
ボーズギア皇子は迅代の言った事を即座に拒否したかった。
しかし通常の部下のように叱り飛ばすだけではダメなため、少し言葉がおかしくなってしまった。
思い直して、迅代の言葉にボーズギア皇子は反論する。
「では、ジンダイ殿は、彼らが戦闘しないで、業者として地図を作っていただけと申すのか?」
そう言いながら、ボーズギア皇子はリガルドやキノンを睨みつける。
リガルドは関わりたくない素振りで目を合わさない。
「無論、その通りですよ」
「魔物に遭遇する危険は有ったのですが、出会ったら逃げるように指示していました」
「結局、今まで、誰一人ケガや死亡は有りません」
「全く、優秀な業者さんです」
迅代は涼しい顔でボーズギア皇子に告げる。
「うぐぐ・・・」
この言い訳に、ボーズギア皇子も、その取り巻きも、何も反論できない。
取り巻きの兵士たちは、皇子の怒りに戸惑いつつも、動向を見守るだけで口を開く者も居ない。
ボーズギア皇子の怒りは募っていたが論理的に否定する言葉が見つからない。
「相分かった!、兵員で無いのならお好きにすればよい!」
言い争いで論破できないと分かると、背を向けて、その場から立ち去ろうとするボーズギア皇子。
無論、迅代達が集めた部隊の成果など、全く活用する気もない。
しかし、迅代が呼び止める。
「ボーズギア殿下、もう少しここに居てください」
「ふん!?、どういう事でしょう?」
興奮したままのボーズギア皇子は迅代の言葉に振り返る。
「もう直ぐ、メンバーが揃うはずです」
迅代の言葉が何を示しているのか分からないが、従うつもりはない。
ボーズギアが無視して立ち去ろうとするが、スカウト部隊の本部に近づいてくる人影に動きが止まる。
「来ましたね」
「ボーズギア殿下、勇者ジンダイが、敵拠点の状況報告を行いたいと思います」
迅代は周囲の者にも聞こえるように宣言する。
人影はよく見ると、ルーフに先導されて、ザーリージャとヴィンツ、そして数人の兵士が歩いて来ている。
そしてその奥からは、グリンが先導してアリーチェとお付きのジェーナ、そして部隊の魔法士らしき人物も続く。
「な、何をするつもりだ?」
ボーズギア皇子は興奮したままの様子で聞く。
「言葉通り、我が部隊の成果をご報告させていただきます」
迅代はボーズギア皇子が部隊の成果を無視できないように、先手を打っていた。
 




