「部隊の成果」
冒険者パーティーを加えたスカウト部隊の偵察活動は、目に見えて成果を出して行った。
やはり、スカウトメインで活動している冒険者パーティーなので、隠密行動での偵察活動の成果は、迅代が必死で行ったものよりはるかに優れていた。
活動を開始してから4日が過ぎたが、ガレーネのパーティーも、リガルドのパーティーも、敵の拠点の2kmほど前まで進出していた。
「すごいな、これで、敵の陣容は概ね把握できる」
迅代は舌を巻いた。
魔物のパトロール部隊も頻繁に出くわすようだが、獣人の優れた感覚と、サーチ魔法による探知で、全く戦闘は発生していなかった。
『これでは、俺が必死に情報を持ち帰る事も無かったか』
すこし自分の力を過信していた迅代は反省していた。
より得意な者が居るなら、その者に任せる、という事をもう少し意識しないとな、と。
本部の統合地図には、日を追うごとに濃密な情報が加えられていた。
迅代が見つけたような監視拠点は、オークとゴブリンの部隊が主に駐留していた。
そして森の中に4カ所作られていて、いずれも川沿いだった。
高見やぐらは1つ、迅代が見つけた物だけだった。
そのやぐらには常時ハーピーが4体ほど居て、異常の確認と通報が即座に行えるようにしていそうだった。
更に、やぐらの下にはオークやコボルドが駐留していて、戦闘時には加勢する体勢ようだった。
そして川の上流、拠点の渓谷の3kmほど前には、防御陣地を複数個所築城しているらしい。
大部隊の移動は川沿いに行われるだろうという読みだろう。
敵の攻撃が有れば、防御陣地の抵抗線で敵を捕まえて、拠点から出撃する本隊の襲撃部隊で押しつぶす構えだろう。
もしかしたら、監視拠点や森のパトロール隊を集めて後方から挟撃する意図も有るかも知れない。
だが、川沿いが兵力配置が濃密な分、その他での防御は手が回っていない感じだった。
兵力が逐次増強されて防御態勢が完成すれば厄介だが、今の状態なら拠点の中心部である渓谷を迂回攻撃できるだろう。
拠点の中心部はさすがに偵察できないので、主力部隊の兵力の全貌は計り知れないが。
『そこは3人の勇者たち任せで、まずはぶつかってみるしかないか』
迅代でもそう思わざるを得なかった。
今のスカウト部隊では戦闘部隊を持たないため、威力偵察のような戦闘行為は出来ない。
見える範囲内で観察するしかない。
しかし、観察だけでも濃密に行えたので、敵の防御の薄い所は把握している。
魔王軍討伐部隊の本隊の移動には少し支障はあるが、侵攻ルートの案を3案ほどすでに作ってあった。
『だが、この侵攻ルート案をボーズギア殿下にどう納得してもらうか・・・だな』
いままでの感じでは、迅代の提案と言うだけで却下されそうな気がしていた。
『うまく周囲の意見も巻き込むよう、勇者たちにも加わってもらって打ち合わせるか』
絡め手で進めないと、迅代は面倒だがそういう考えを持つよう、留意していた。
『そういえば、そろそろ魔王軍討伐部隊の本隊が進出してきているかも知れない』
『物資の補給と状況把握を兼ねて、ルーフを一度村にやるか』
2時間ほどして、休養時間が明けたばかりのルーフに指示を出す。
「ルーフ、一度村に戻って、本隊が居ればここに連れてきてほしい」
「もし本隊が居なかったら、追加の食糧を2日分調達してくれ」
迅代の指示にルーフは間の抜けた声で返事をする。
「へーい」
『本隊が来れば俺たちの仕事も終わりだぜ』
『やれやれだ』
とルーフは内心では思っていたが。
翌日。
ルーフが乗る馬を先頭に、隊列が続々と到着する。
魔王軍討伐部隊の攻撃部隊、魔法支援部隊、そして司令部部隊。
すでに村に魔王軍討伐部隊のほぼ全力が進出していたようだ。
そして今までに無く腰が低い姿勢でルーフが数人の人を案内してきた。
司令官であるボーズギア皇子とその取り巻きだ。
スカウト部隊側も、偵察行動が一段落ついて、2つのパーティーの主要メンバーが本部に居る。
本部の統合地図と、冒険者パーティーのメンバーたち、そして迅代を見て、ボーズギア皇子は言った。
「ジンダイ殿、これはどういう事かな?」




