「前進拠点」
翌日にはガレーネパーティーも到着し、スカウト部隊の陣容はそろった形だ。
迅代は、ガレーネたちには悪いとは思ったが、落ち着く間もなく部隊本部を前進させる事にした。
全員が乗れる馬車は無いので、各パーティーは徒歩での移動とした。
前回の野営地で本部を構えるつもりなので、徒歩での移動では1日ほどかかる。
ルーフの荷馬車と、迅代、グリンの馬の駄載で、全員が5日ほど過ごせる糧食を村で購入し、運ぶ事にした。
村人からは思わぬ臨時収入に喜ばれることになった。
もし期間が延びるなどで食料が不足するなら、後は動物や魚を現地調達する事にした。
到着後の早速の移動で、ガレーネパーティーの面々は不満そうだったが、これも仕事と従ってくれた。
さすがはBランクの冒険者パーティーだ。
魔王軍討伐部隊の本隊が到着するまでに、ある程度敵の陣容をつかめないと意味が無い。
迅代は、出来るだけ早く、索敵できる体制を作りたかった。
急いだ甲斐も有って、その日のうちに野営地に移動までは完了できた。
各員には今日休むためのテントを設営してもらい、食事の準備は先行して到着していたスカウト部隊が行っていた。
メニューは早速、とっておきの燻製肉だ。
「美味そうですね」
グリンが再びテンションが上がる。
「こりゃあ確かに美味そうだ」
さすがのルーフも興味が有るようだ。
ガレーネパーティー5名、リガルドパーティー3名、スカウト部隊3名、合計11名分の肉はそれなりの出費だった。
『出費は痛いが、ここはみんなに頑張ってほしいからな』
迅代はそう思って、団結式を兼ねて奮発する事にした。
移動初日なので、村からのパンや新鮮な野菜や、果物も付けることが出来る。
ちょっとした食事会だ。
無論、敵地近くなので騒ぐようなことは出来ない。
だが、栄養補給兼士気向上だ。
テントを張り終わった面々が食事のために集まる。
「おお、なにこれ、美味しそう!」
早速匂いを嗅ぎつけたのはイリナだ。
「はい、どうぞ」
プレートに焼いた肉と、パン、そして、野菜と果物を載せたものをグリンが手渡す。
「今日はスープも有るので、そっちから取ってください」
グリンは横の小さな台の上に並べられたスープの入ったコップを指さす。
「俺も」
グリーナもそっけない感じだがプレートをもらいに来る。
「はい、どうぞ」
グリンはにこやかに渡す。
余り表面には出さないが、グリーナもちょっと嬉しそうだ。
「なかなか張り込んだなあ」
リガルドがプレートを受け取りながら、迅代に言う。
「その分、しっかり頼むぞー」
迅代の軽口に、リガルドは肩をすくめる。
それでも表情は柔和な感じだ。
『やっぱり食事は大切だな』
迅代はそう考え、リガルドの背中を追う。
「おお、これはいいね~」
キノンが顔を出す。後ろにココリとザズが付いて来ている。
「はい」
「はい」
次々にグリンはプレートを手渡す。
「ありがと」
ココリはちょこんと礼をした。
「ココリ、肉と野菜交換しね?」
プレートを受け取ったザズが言う。彼は肉をあまり好んで食べない種族だった。
「えー、わたし、そんなに肉要らないから・・・キノンに言えば?」
「おう、ザズ、野菜と果物で交換してやるよ」
キノンがザズの提案を引き取る。
「すいません、肉好きじゃなくて・・・」
「それは仕方ないよ」
その会話を聞いていた迅代が割って入る。
「肉がダメなのか、すまなかった」
「野菜と果物を多めにするよ」
迅代は肉が食べられない者へ思いが至っていなかったことを反省する。
「ありがとう、隊長さん」
ザズが礼を言う。
「ほう、イイ男だねー、隊長さんは」
キノンが冷やかす。
「ははは」
迅代は愛想笑いでごまかした。
最後にガレーネとリボーがプレートを受け取り、全員に夕食を配り終えた。
みんなわいわいと食事を楽しんでいる。
ルーフとグリンも食べ始めた。
そこで迅代が話し出す。
「食べながらでいいので聞いてくれ」
全員の視線が迅代に集まる。
「急いでこの野営地まで進出したが、ここはほぼ敵の勢力圏との境界と思ってほしい」
「今日から数日は苦しい時も有るかも知れないが、任務遂行のため力を貸してほしい」
「よろしく頼む」
「わかりました、隊長さん」
ガレーネは律儀に返事をする。
それに対してリガルドは、わかってる、といった顔で少し手を上げただけだった。




