「村への帰還」
迅代とグリンは急いで野営していた場所に戻り、すぐに馬に乗って撤退を開始した。
迅代の傷の手当も置いて。
傷はかなり痛むが、魔物に追撃されては命も危ない。
特に翼を持つ魔物が気がかりだった。
馬に乗って村への帰り道を進み、あたりが暗くなる頃、小休止を取り、ようやく迅代の傷の手当てを行った。
迅代の左肩には完全に矢じりが刺さっていたが、それを抜き、回復薬で治療する。
麻酔もない状態で矢じりを抜くのはとんでもない激痛だったが、回復薬を使用すると、体組織が形成され概ねの傷は塞がった。
それと同時に、痛みもすっと引いていった。
『ヒールの魔法もすごいが、これもすごいな』
そんな事を思いながら、迅代は治療をした。
グリンによれば、近衛隊の回復薬は一級品が使われているので、よく効くのだとか。
『さてどうするか・・・』
予定より半日ほど時間を押してしまった。
陽のあるうちに、帰りの行程の8割は馬で進むつもりだったが、まだ4割ほどだ。
『ここは一泊するか』
そう考えて予定を変更してもう一泊する事をグリンに告げる。
テントを設営し、焚火を起こして簡単に夕食を摂る。
もう食料はパグルと少しの木の実しか残っていないし、水も飲み水として持ってきたものはもう無い。
迅代は川の水をそのまま飲むのには抵抗感が有ったので、せめて沸騰させて、お茶を入れて飲むことにした。
確か1気圧で沸騰状態で5分ほど沸かせば完全な殺菌が出来ると、キャンプの豆知識を知っていた。
とりあえずはそれに従う事にした。
残りの食料も二人で分けて、お茶でかき込んだ。
もう脅威は無いと判断して、二人とも睡眠を取る。
そして翌朝、お茶だけを朝食として摂って出発し、村には昼過ぎに到着した。
「隊長、昨日帰るっていていたので、やられたのかと思いやしたぜ」
部隊本部代わりの荷馬車に到着した迅代を見て、ルーフが言った。
『ルーフのやつ、最近、軽口に遠慮がなくなったな』
そんな事を思いながら、迅代は応える。
「ああ、大変だったよ、結局戦闘もして、負傷もしたしな」
「へえ、そうなんですか、それは大変でやしたね」
とルーフは口では言うが、『ひえ、今後も絶対に付いて行かねえぞ』と心では思っていた。
「グリンは無事でやすか?」
「ええ、大丈夫ですよ」
迅代の後ろからグリンが顔を出す。
「へえ、どうだい?魔物の一体でも倒したか?」
またルーフがからかうように言う。
「倒せはしませんでしたが、オークに2発ほどお見舞いしてやりました!」
グリンは自慢げに話す。
「へ、へえ、オークに、そりゃすごいな」
気圧されるルーフに、すぐさま迅代がグリンの肩に手をまわし、言った。
「グリンは俺の危機を救ってくれた、命の恩人みたいな感じだ」
「隊長~」
その言葉に、グリンは感動する。
「しかしだ、お前の行動は命令違反と紙一重、グレーだぞ」
「すみません・・・」
迅代にたしなめられて、今度は意気消沈なグリン。
「だが、本当に助かった、ありがとう」
「はい」
グリンはいつものはにかんだ笑顔で答えた。
『けっ、仲間っぽくやりやがって。俺はそんなのには染まんねえぞ』
ルーフは迅代とルーフのやり取りを見て考えていた。
「おっと、そう言えば、リガルドのパーティーが到着していやすぜ」
思い出したようにルーフが言う。
「そうか、だが、ガレーネのパーティーも揃ってから行動だな」
「じゃあガレーネたちが来るまでここで待ちでやすね」
迅代の言葉にルーフが気楽に言う。
「だが、本部を川の上流まで移動するので、消耗品の確保を行うから、そのつもりで」
「へ、へえ・・・」
迅代の言葉に、村から離れるのか、と面倒そうにルーフが答える。
「また、燻製肉を買いましょうよ」
グリンが横から口をはさむ。
「え?燻製肉?なんでえそれは」
ルーフはグリンに聞く。
「こら、グリン、秘密って言ったろ」
迅代がグリンに言う。
「あ、そうでした」
しまったという顔をするグリン。
「仕方ないな、1食分は全員分購入するか・・・」
迅代は仕方なさそうに言った。




