「オーク」
オークとコボルドは転がっている迅代の逃げ場を塞ぐように、左右に広がって近づく。
後ろを弓で狙われていては、立ち上がって戦闘態勢を取る事も出来ない。
『相手の隙を突くには、奴らがある程度接近してきた時を狙うしかないか』
『それまでに、再度矢を撃たれるのはまずい』
『オーバーに負傷した感じを見せておくか』
迅代はまだ諦めていない。
体を丸めて、痙攣しているような演技をする。
どこまで効果が有るかわからないが、体を丸める事で、弓の狙いを付けにくいようにする。
しかし、その目はオークとコボルドとの間合いを測っている。
オークが5mほどに近づいた時、オークとコボルドが警戒しながら速足で寄ってきた。
迅代が未だ動ける事を警戒して、オークは棍棒を振り上げて一撃を加えようとしている。
迅代の狙い目のタイミングだ。
左肩の痛みを押して、右手のバトルナイフをしっかりと握る。
そして、丸まった体勢から、魔法を放つ。
「フラッシュ!」
強力な閃光が辺りを照らす。
同時に迅代は姿勢を変化させ、足を地面で踏ん張り走れる体勢となる。
即座に低い姿勢でコボルドのほうに走り出した。
コボルドの防御力は前回の交戦で把握した。
バトルナイフの一撃で、相手の戦闘力を奪えるだろう。
そして、この2体を盾にして、弓の射撃を受けにくくする想定だ。
突然の閃光に驚く、オークとコボルド。
「ひゅん」
弓も射かけられたが、迅代が元居た場所辺りの地面に刺さる。
迅代は最大速度のダッシュでコボルドに向かう。
閃光の余波であまり様子が見えていないオーク。しかし迅代の動きに対応して、棍棒を迅代のほうに向けて振り下ろす。
オークのリーチが長い。
棍棒を避けるように、コボルドの右側を駆け抜ける。
「キン!」
迅代はコボルドが振り下ろすナイフをバトルナイフで捌き、後ろに回り込む。
そこをオークの棍棒が叩きつけられる。
「ガツン!!」
「ギャウ!!」
棍棒はコボルドに直撃した。
頭に棍棒にたたきつけられたコボルドは、そのまま絶命した。
しかし、オークは味方を打撃した事を気にもかけないように、棍棒をさらに振り回す。
振り下ろした棍棒を、今度はコボルドの後ろに回った迅代を狙って、横に振り切る。
コボルドの体が有るのも構わず、そのまま。
「ドン!」
棍棒に撃ち込まれたコボルドの体が吹き飛び、迅代に直撃する。
さすがの迅代もこの直撃では、足を止められてしまう。
斜め正面からコボルドの衝突を食らい、ひっくり返ってしまう。
「うぐぅ!」
ひっくり返った拍子に、左肩に刺さった矢が地面に触れて押し込まれる。
激痛が走るが、オークも突進してくる。
転んだ迅代に棍棒を食らわせようというつもりだ。
オークが目の前で棍棒を振り上げるが、コボルドの死体が邪魔で直ぐに避けることが出来ない。
『バトルナイフで受け切れるか?』
迅代は左肩の負傷が有るうえでは、無傷で受け切れる自信は無かったが、最善の行動はそれしか無かった。
「ひゅん」
「グォ!」
棍棒を振りかぶったままのオークが小さなうめき声をあげて姿勢がのけ反る。
迅代はこのチャンスを逃さず、コボルドの死体を払いのけ、正面に仁王立ちしているオークのほうに突進する。
そしてバトルナイフでオークの左足に斬りつける。
「グオオオオォォ!!」
左足の防具の無い部分を狙って斬りつけたため、鮮血が飛び散る。
左足の膝を折るオーク。
「グフゥゥゥ」
痛みで唸るオーク。
「ひゅん」
「ズサッ!」
オークの右肩部に矢が刺さる。
良く見ると、右わき腹にももう一本の矢が刺さっていた。
オークは棍棒も手から離す。
矢を放ったのはグリンだった。
迅代は間髪入れず、動けないオークの背中から、腎臓の辺りを狙って、バトルナイフを深く突き刺した。
「グォォォオ!!」
オークは絶命した。
迅代は森のほうの様子をうかがう。
もう弓の射撃は来ない。
敵は撤退したように思えるが、油断は出来なかった。
『増援を呼ばれるかも知れない』
『生存者を逃がすのは痛いが、まずは生還だ』
今度はオークとコボルドの死体はそのままに、撤退を急ぐことにした。




