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「外交官セレーニア」

皇帝の居た部屋から出た、迅代とクロスフィニア皇女。

そこに外で待機していた官吏のような身なりの女性が寄って来る。


クロスフィニアは立ち止まり、紹介する。

「勇者ジンダイ様、こちらは、我が国の外交官、セレーニアと申します」


セレーニアと紹介された女性が迅代の前に跪き、話す。

「勇者ジンダイ様、セレーニア・ヴィジランテと申します。」

「若輩ながら皇国外交官を務めさせていただいています。お見知り置き下さいますようお願いいたします」


迅代が見た所、クロスフィニア皇女よりは大人には見えるが、相当若いようだ。

また、整った顔立ちで美しい。

迅代は、あまり自覚は無かったが、美しい女性相手に少し緊張しているようだ、当然、自然に接したい、が少し声が上ずってしまった。

「よろしくお願いします。えっと、ヴィジランテさんとお呼びすれば良いのでしょうか?」


その言葉にセレーニアが微笑んで言葉を返す。

「名前で呼んでいただいても問題ございません。セレーニアで構いませんわ」

「わかりました、セレーニアさん」

自分の迅代ジンダイと言うのは家族名であり、名前では無いのだが、と思ったが、そこの説明はせずにほっておくことにした。


クロスフィニアが言う。

「勇者ジンダイ様の日頃の対応は、このセレーニアが務めさせていただきます。なんなりとお申し付けください」

迅代はクロスフィニアに向かい「わかりました。皇女殿下」と応じる。


セレーニアが立ちあがり「では、勇者様、お部屋を用意してございます。こちらに」案内する姿勢を示すセレーニア。

そこでクロスフィニアが言う。

「わたくしはこれにて失礼いたします。何かございましたらセレーニアにお伝えいただきますと、私も参りますので」


「ありがとうございます、殿下」

迅代は礼をしてセレーニアを見送った。


皇女と別れ、セレーニアの案内で進む迅代と待女。

迅代はこの人ならもう少し情報を聞き出しやすいかと考えて口を開く。


「ちなみにここは皇国の城、皇帝陛下の居城と考えてよろしいのでしょうか?」

先に進むセレーニアゆっくりと振り返り「その通りです、勇者様」

所作が丁寧な形を取りつつ時間を稼ぐ、反射的な回答を抑制する術を習得しているようだ。

外交官として必要な所作なのだろう。


本音を聞き出すのは難しいようだが、国の公式回答なら話してくれそうだ。

城内を進みながら、風景や気づいた点など、2~3話題を向けてみたが、同じように丁寧で明快に答えてくれた。


石作りの渡り廊下に出る。

建物の外が見える廊下だが、吸い込む息に特に嫌な匂いもなく、今までの日本と違う世界とは思えなかった。

日差しがちらりと見えたが、太陽が高く昇っていた。


廊下の先は、おそらくは城の端のほうの敷地のようだった。

そこの来客用の離れのような建物がいくつかある中の一棟に案内される。


4部屋ほどある建物で、装飾も立派なもの。

賓客を招いた時の宿泊用の建物なのだろう。

部屋に入ると、セレーニアが待女を下がらせ、居間の役割を持つ部屋に入る。

すでに灯は燈されている。真ん中には低いテーブルとソファーがある。セレーニアと対面で腰掛けて話をつづけた。


「すでにほかの勇者も召喚されているのですか?」少し回答しずらいであろう秘密に属しそうな質問を迅代が聞く。

「はい、剣闘士ヴィンツ様、魔法戦士ザーリージャ様、魔法士アリーチェ様の御三方が召喚され、我が国の危機にお力添えいただけるよう、お願いしている所と聞いています」

迅代は結構踏み込んだ所まで教えてくれるのだと感じた。

国としては国民に無用な心配をさせないため、良い事しか公表しないだろうが、まだ、お願いしていて協力が確約されていないことを明かすのは意外に感じた。

そこで、あの部屋でもう一つ違和感を覚えたことが有った事を質問してみた。


「勇者は必ずしも歓迎される存在ではない、という事も有るのでしょうか?」

迅代の言葉にセレーニアの筋肉が強張ったように感じた。

迅代は狙撃をするときに人の動きを観察し、未来位置に弾丸を打ち込むように心がけているため、筋肉の動きに敏感なところが有った。


「いずれ伝わる事と思いますので、お話ししますが、失礼な事かもしれませんので、お怒りにならないよう、お願いいたします」

セレーニアの言葉に、やはり、そうなのか。迅代はあの部屋の空気で感じ取った事を思い返した。


「本来は言い伝えの勇者様は3人。そしてその3人は、皇国の古式に則り召喚された方々なのですが」

「ジンダイ様は、召喚の儀に想定外の余力が生じたため。さらにこの戦いの助けになるだろうとクロスフィニア殿下が限界までお力を振り絞り、召喚されし勇者様なのです」


「え、そうなんだ」思わず軽くいってしまう。

言わばオマケ勇者と言う事かと思う迅代。


その言葉にピクっと反応するセレーニア。「お怒りに、なりましたか?」おずおずと聞く。


「いや、大丈夫だ。それに、俺は魔法とか使ったことないし、短剣は使えても、大剣での戦闘経験なんて無いからなあ」

銃剣戦闘術の評価は高かったので、少しは役に立てる気はするが、銃が無いようでは今まで学んだ戦闘技術のほとんどは役立たずだろう。


「出来るとしたら戦闘指揮か狙撃ぐらい・・・そうだ、この世界に銃は存在するのですか?」

思い出したように確認する迅代。

あの部屋の兵士らしき者たちは槍しか持っていなかった様だが・・・


「ジュウ、ですか?それは何でしょう?」セレーニアにとっては直ぐに思い当たらない単語のようだ。

「棒状の金属の筒で、火薬で弾丸を発射する武器だが」

迅代が簡単に説明する。


「そのようなものは聞いたことがございません」との返事が有った。

どうやら火薬武器と言うものが一般的にはなっていないようだった。

「中世っぽいから、そうだよねえ」迅代がつぶやく。


「チュウセイ、とはどういう?」さらに困惑するセレーニア。

しまったと思う迅代。元の世界の言葉であまり混乱させないように気を付けないと。

「いえ、すみません。銃は私の世界の武器なのですが、その腕は誇れるのですが・・・弓や、クロスボウのような武器は有りますか?」

「弓ならございます。クロスボウとは、引いておいた弓矢をセットしておき放てる武器ですね。」

「国軍の正式な装備には有りませんが工房に言えば作らせることは出来るでしょう」

「ただ、クロスボウですと高価で、威力も弓ほうが良いので、ロングボウのような甲冑を射抜ける威力が有る武器が軍では正式装備となっています」


『最も銃に近い武器となるとクロスボウになるか。』

『だが一般兵士の甲冑が打ち抜けないようでは勇者の敵にも当然力不足なんだろうな。』

ぼんやりと迅代は考えていた。

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