表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

49/348

「敵地侵入」

小さいほうの月が天頂に昇った。

この世界では月が二つある。

エゴルの月と、エーリエの月だ。

小さいほうの月がエゴルで、男性の神の化身、大きいほうの月がエーリエと言う女性の神の化身だと言う。

エーリエは大地の裏側に隠れて今は見えない。


見張りをするグリンがエルゴの月を見上げる。

所々に雲海が有り、たまに月を隠す。

エルゴの月は満月に近いが小さいため月明りはさほど強くない。


6時間ほど緊張しながら周囲に気を配り、種火の面倒も見ていたグリンが、緊張が解けてきてアクビをする。

『隊長を、そろそろ起こしたほうが良いかな?』

そう思っていると、ごそごそとテントから音がする。

『隊長が起きたか』

そう思ってグリンは再度視線を周囲に配る。

何も居ないし何も感じない。


「おはよう、グリン」

迅代がテントから出て来た。

「おはようございます、隊長」

「異常は無かったか?」

「はい、おかしいと思うようなことは無かったです」

「わかった、交代だ、休め」

「はい」

迅代は見張りを代わり、まずは馬の様子と、野営地の20mほどの周囲を注意深く周回し、異常が無いかを確認する。

大丈夫であることを確認後、グリンの居た位置に陣取って、警戒しつつ、明日の準備の続きを始める。


そして朝、周囲の暗闇が溶けていく頃、朝食のために種火を少し強くして、湯を沸かす。

湯が沸くころを見計らって、迅代はグリンを起こした。

グリンは疲れていたのか、すぐに起きなかったが、寝ぼけた顔で準備をする。


朝食の準備してある焚火の前に二人は対面で座る。

「飲め、目が覚めるぞ」

迅代は濃い目の温かい茶を入れて、グリンに渡す。

「うぐ、苦いです」

グリンには苦かったらしい。だがグリンは残さずに飲む。

朝食のメニューは濃い茶とパグル2枚づつと少しの干し肉。

それに迅代が村で買った、木の実、それと、昨日の調理で残ったラードだ。

木の実はナッツ、ベリー、小さなスモモのようなものが混ざっている。

それひと掴みづつぐらいづつで分ける。

「ラードは大丈夫だったらパグルに塗って干し肉を載せて食べるといい」

「脂分も取っておいたほうが良いからな」

迅代の言葉に、素直にグリンはラードを塗って食べる。

薄く塗ればマズくは無かったが付けすぎると気分が悪くなりそうだった。


朝食後、迅代は顔にドーラン想定の緑色の油を塗る。

「緑の勇者の出陣ですね」

グリンが迅代の顔を見て言う。

迅代は返事をせず少し笑って答える。グリンには歯だけがとても白く見えた。


朝日が昇る頃、迅代は出発した。


グリンは迅代を見送った後、警戒はしながら撤収のための片づけに入る。

荷物は馬に駄載し、野営跡も出来ればカモフラージュしてほしいとの事だった。

冒険者パーティーとの前進拠点もこの場所にするかも知れないので痕跡は残したくないと。


そして、太陽が陰る頃までに迅代が戻らなければ、馬2頭を連れて撤退しろと命令を付け加えた。

絶対今日探そうと思わず、冒険者パーティーと合流後戻ってきて捜索してくれと。

グリンは自分の実力ではどうする事も出来ないので、この命令に同意した。


一方、迅代は、川の上流側に登るため、河川敷から5mほど森に入った所を進んでいた。

森の木々を遮蔽物にして、川の周囲に異変が無いかと、森の中に異変が無いかとを、両方確認して進む。

一人での確認なので、細かなところに見落としが出るかもしれないが仕方がない。

目立つ大きなものをまずはチェックするつもりだった。


川沿いの道の終端から、さらに上流に5kmほど進んだ所で、10m四方の森が少し開けた場所が有った。

河川敷が森側に出っ張ったような土地で、すでに枯れた倒木が何本かあり、地面は土がむき出しで、ちょっとした広場だった。

その地面の土にはいくつかの足跡が残っていた。

迅代は慎重に森の中から観察し、足跡を目で追う。

すると、倒木の横に、土にまみれた、ぼろ布のようなものが有る。

人間の体のようだった。

人間と認識すると、更に色々と見えてくる。

足、腕、頭・・・頭はここからは見えないが、無いようにも見えた。

『おそらく3日前に調査に来た冒険者だろう』

迅代はそう判断した。


この広場を通るのは危険と判断し、冒険者の様子は確認しないことにした。

今調査しても何もできないし、先に進む事のほうが重要と判断したためだ。

一旦ここまでで、たどったルートの気づいた点を地図に記入する。


そして広場を森の木々に隠れながらぐるっと回り、河川沿いの上流ルートに戻るように移動する。

すると、河川敷に動くものを見つけた。


魔物だ。


2体ほどの5mほどの体格を持った魔物と、周囲で使役されている10体ほどの子供のような魔物が居る。

『子供のような魔物は、ゴブリンか?』

迅代はルーフの武勇伝を思い出す。

大きな魔物は木々を伐採して集め、ゴブリンはそれを組み立てて、小屋のようなものを作っているらしい。

『渓谷から下流側に、監視範囲を拡張しているのか?』

迅代は作っている小屋が監視小屋のようなものでは無いかと推測した。


良く見ると人間サイズの魔物らしきものがもう1体居る。

この人間サイズが5mサイズに指図している。この人間サイズが指揮を執っているように見える。

『身長は2mほどか・・・顔の突起は角か?・・・口には牙、鼻は上向き、肌は緑に近い・・・オークかも知れない』

セレーニアに教えてもらった魔物の特徴を思い出して観察する。


間違いなく、見つかれば、対抗する術は無いだろう。

急いでこの場所を地図にマーキングし、監視小屋との記入をして、先に進む事にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ