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「初出撃」

エーリズ村に来た翌日、早速、迅代とグリンは騎乗で川沿いをさかのぼって偵察する事とした。

村人に聞いたところでは、問題の渓谷まで徒歩で2日ほどかかるとの事だった。

『冒険者パーティーが集結したら、野営地を前進させるべきかもな』

迅代は、濃密な捜索態勢を作るため、色々と考えていた。


ついでに得た情報では、3日ほど前、村の依頼で捜索に出た冒険者二人組が居たが、戻ってこなかったそうだ。

村では、いよいよ危機はそこに有ると感じ、場合によっては、村人だけ一時的に避難する算段は付けているとか。

確かに、村の広場に荷馬車が5組ほど準備されていた。

村には自警団が有るとの事だったが、素人の村人が10人ほどの戦力だそうだ。

これでは抵抗なんかは考えず、一目散に下流のほうに逃げるしかない。


留守番をするルーフには、村人が逃げる状況になったら、部隊の荷馬車で付いて行くように命じた。

その時は、スピード優先で、おろしてある荷物は放棄して良いと言っておいた。

迅代はルーフはなんだかんだで、危機に際しては上手く立ち回るだろうと感じていた。

単独での留守番役には意外と適任だ。


偵察に向かう迅代はグリンと乗馬して並ぶ。

2人とも宿泊用の装備と2日分の戦闘糧食を持ち、一応、連射クロスボウを駄載していた。

刀剣類は、迅代は自分のバトルナイフ、グリンは標準装備のショートソードだ。


1日目は危険を避けるため早い目に野営をし、2日目は早朝から進めるギリギリまで行き、その日のうちに取って返して村に戻る予定だ。


乗馬して待機しているグリンが神妙な顔をしているのが分かる。

「初の実戦だな」

迅代が声をかける。


「隊長、前に死ねと言われれば死ねると言いましたが、噓かもしれません」

グリンは率直に言う。


「英雄にならなくて良いのか?」

なんとなくわかっているが、一応、迅代が問いかける。


「ルーフさんを見ていると、生きていてこそだと思いました」

グリンは少し離れた荷馬車付近にいるルーフを見て言う。


『ルーフのいい加減さも、堅いグリンにとっては良い人生の先輩なのかもな』

そんな事を思いながらグリンに少し微笑んで言った。

「ああ、まず死ねなんて言わないが、死にそうになっても生きる選択をしろ」

グリンははにかんだ笑顔をして返事をした。

「はい」


朝日が昇る頃、ルーフが見送る中、二人は出発した。


川沿いには50kmほど今進んでいる道が続くらしい。

そこから先は河川敷でないと進みにくいらしいが、それでは相手側にすぐ見つかってしまうだろう。


『今日野営地を設営してからは徒歩で進むほうが良いかも知れない』

現地の状況は分からないが、隠密行動が第一である。

見つかって攻撃される状況だと、2人では逃げ切れるかも怪しい。


太陽が頂点から陰る頃、川沿いの道の終端に到着した。

ここまで食事もせず、小休止だけだったので、馬も疲れているはずだ。

迅代はこの辺りで野営地を探すこととした。


川の周囲を見回すと、岩場に木々が点在するような風景だ。

まずは、脅威が無いかと、野営できそうな場所を探して、グリンと手分けをして周囲を探索する。


少し下流に戻り川からも離れるが、シダのような木が群生するポイントをグリンが見つけた。

馬2頭はここに隠せそうだ。

木の群生ポイントの脇で土を一段低く掘り、周囲から見えにくい位置でテントを張り、野営地にする事にした。


設営作業前に軽く昼食に当たる食事を摂る。

一般的な携帯戦闘糧食として食べられている5cm四方ほどのビスケットのような塊のパグルという食べ物と、干し肉だ。

スープかお茶が欲しい所だが、火は起こさずに水で流し込む。


速度優先で行動したため、なんとか陽が落ちる前に野営の準備は完了した。

念のため、テントには荒網を張り、草木を被せておいた。


野営準備は出来たので、早い目に夕食を摂る事とした。

陽が落ちた夜間は火の灯は目立つため、種火にするつもりだ。周囲が明るい内に火を使った調理を行う。

メニューは昨日のうちに作っておいた濃縮スープと、量の嵩増し用のパグル、そしてメインは村で購入した燻製のイノシシ肉だ。

燻製肉はそこそこの大きさで食べごたえが有りそうだった。


「うわああ」

グリンがちょっと豪華な夕食に声を上げる。

「このイノシシ肉はルーフには内緒だぞ」

迅代はいたずらな目をしてグリンに言う。

肉をほおばるグリン。

「おお、おいしいですよ、この肉、なんだか独特の風味がします!」

「ふふん、そうだろう?」

迅代は少し得意げに、言う。

前の世界で趣味でキャンプをしていた時が有り、その時の知識とテクニックだ。

エーリズ村で燻製肉を作っている所が有ると聞いて少し高かったが購入しておいたのだ。

スープのほうは程ほどで無いよりまし、パグルはそれほど美味くも無いのでスープでかき込んだ。

それでも、グリンにとっては良い夕食だったようで、テンションがいつもより高かった。


陽が落ちた頃、今後の行動の指示を出す。

「明日は俺一人で徒歩にて上流に登る。グリンはここで留守番だ」

「それは、私が実力不足だからでしょうか?」

グリンが真剣な顔で質問する。

「いや、実力とかでは無く、ここから先は馬で行動すると目立ちすぎる」

「馬の面倒と装備の片づけのために残ってもらう」

「わかりました」

「それと、もしかしたら俺が魔物に追われている状況が有るかも知れない」

「その時はクロスボウでの援護を頼む」

「なるほど、そうですね」

グリンもその言葉に納得する。


「それと、ここは敵地と思ったほうが良い。今夜は交代で番をする」

「明日、侵入行動を取る俺のほうが先に休ませてもらう」

「はい」

「夜の二十四刻頃※見張りを交代だ」

※24時頃

「丁度この時期、エゴルの月が頂上に来る頃、二十四刻頃だからそこで番を交代だ」

「その後、日の出前、五刻頃にグリンを起こす、そして俺が出発する」

「了解です、隊長」


「では、悪いが、先に休ませてもらうぞ」

「あと、見張り中、クロスボウを常時手元に置いておくように」

「何かの時に遠距離攻撃が出来るのは強みだからな」

そう言い残して迅代がテントに入る。


「おやすみなさい、隊長」

種火の灯だけがぼおっとグリンの顔を照らす中、グリンは身震いする。


初めての実戦での、初めての夜間の見張りだ。

見張りをするときは、見ることも大事だが、音や空気感を感じる事も大事だと教えられた。


周囲の音や空気に注力しつつ、目は前の空間を凝視していた。

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