「憂い」
クロスフィニア皇女とのお茶会の席に、セレーニアは来ていたが、皇女の前であるにも関わらず、ほとんど死んだ状態だった。
迅代との会食で、食事中に酔って寝てしまった事で、もう人生最大の恥を晒した思いだった。
「セ、レン・・・どうしたの??」
驚くクロスフィニアの声にも座席に突っ伏して、立ち直れないセレーニア。
クロスフィニア皇女を前にして、このような態度を取ったことは一度もなかった。
「フィアぁぁ・・・」
顔をちらりと見せたセレーニアは涙で濡れていたが、突っ伏した姿勢は変わらない。
「あらあら・・・」
『ジンダイ様の前で失敗でもしちゃったのかな?』
クロスフィニアは、いつも落ち着いて、弱みもあまり見せないセレーニアが、このような醜態を晒すのが、かなり意外だった。
「どうしたのかなー?ジンダイ様関係でやっちゃった?」
ちょっと茶化して聞いてみる。
「フィアぁぁぁぁぁ・・・」
もう再起不能なほどの勢いのようだ。
「ほら、セレン、ちゃんと話して」
皇女がちょっと強めにセレーニアの態度を正させる。
「あい・・・」
みっともない泣き顔を上げて、クロスフィニアのほうを向く。
「セレン、どうしたの?何が有ったの?」
『あれほど外見を気にするセレンがこうまでひどい状態になるなんて』
『これは大失態をやっちゃったのかな?』
セレーニアは、皇女の促す言葉に、応えようとするが、まだもじもじしている。
「先日の休息日なんだけど」
ぽつりとセレーニアが言う。
「うん?それで?」
クロスフィニアが出来るだけドライに先を促す。
「ジンダイ様とお食事したんだけど・・・」
また、ぽつりとセレーニアが言う。
「うんうん、それで?」
クロスフィニアが更に先を促す。
「途中でお酒を飲みすぎちゃって・・・」
促されてセレーニアが続ける。
「うんうん」
クロスフィニアが更に促す。
「食事中に・・・寝ちゃったの・・・」
またセレーニアの体が俯き、突っ伏しそうな感じになっている。
『これは・・・これは、確かに大失敗だわ・・・』
クロスフィニアはセレーニアの想像以上の失態に、これはどうにかできる問題では無さそうに感じた。
「そ、そうなんだ・・・それはさすがにちょっと格好が付かないわね」
クロスフィニアはとりあえずの繋ぎの言葉を発してしまった。
「そうですよね、そうですよね」
「わたしは、ジンダイ様にとんでもない女だって思われましたよね・・・」
「食事中に寝てしまうような、普通じゃない女だって、思いますよね」
セレーニアは思っている不安をどんどんと口にする。
クロスフィニアは少し対応を間違ったと思ったが、不安な事を言わせてみるのも解決になるのでは、とも考えた。
それに彼女が落ち込んでいるせいで、迅代への対応にミスが有ると、それこそ、セレーニアは落ち込んでしまうだろう。
「この国の貴族なら、確かに物笑いのタネになるわね」
クロスフィニアは少し強い目も言葉で答えた。
「そうですよね、貴族なら相手側の家にも断られますよね」
そう言うとセレーニアの体はどんどんと傾く。
もう頭がテーブルに付いてしまいそうだ。
「でも、ジンダイ様は異国の人、この国の常識は、必ずしも正解とは限らないわ」
クロスフィニアはセレーニアを元気付けるため、勝手な想像で言う。
「でも、ふつうはおかしい人って思うと思うし・・・」
セレーニアはぶつぶつと呟く。
「それに、ジンダイ様とはその後に会ったの?」
クロスフィニアの問いにセレーニアが応える。
「はい・・・2~3度・・・部隊の出撃の準備が有りますので」
「で、態度に変化は有ったの?」
「特には無かったです・・・」
「でも、仕事の話だったので、事務的な感じでしたから・・・」
「なら、大丈夫よ、たぶん」
「え?・・・どうしてそんな事が言えるんですか・・・」
もうセレーニアはテーブルにおでこを付けている。
「きっとジンダイ様は、その時の事を無かった事にしようとしているのよ」
「女性に恥をかかせないために」
クロスフィニアは迅代が気を使ってくれていると言う。
「やっぱり、恥ですよね・・・」
そう言われてもセレーニアはダメージから復帰できない。
「そういうジンダイ様の気遣いを無駄にして良いのかな?」
「・・・」
クロスフィニアの言葉にセレーニアは考える。
「今は部隊の初陣の時期、心のわだかまりが、仕事に影響するとダメでしょ」
「それこそ、従者失格になるわ」
クロスフィニアのこの言葉は、セレーニアに効いた。
「・・・そう・・・ですね・・・」
「わたしの恥より、魔王軍への対応、ですよね・・・」
セレーニアのその言葉に、この流れがセレーニアの気持ちを持ち直させると思った。
「そう、ジンダイ様が普段通りである限り、セレンも変な意識をしちゃダメだよ」
「自分の事より、ジンダイ様の事よね」
クロスフィニアはセレーニアの忠義心に訴えかける。
「わかりました、変な態度を取ってしまい、申し訳ありません」
セレーニアは傾いた体を起こしながら言った。
「うん、それでこそセレンだわ」
クロスフィニアはセレーニアの気持ちを後押しするように言った。




