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「休息日の夜」

休息日の夕日が落ちる頃、迅代は少しそわそわしていた。

先日約束していたセレーニアとのプライベートな会食が本日行われるからだ。


城下町の店などに誘ったほうが良いかと思い、セレーニアに聞いてみたが、迅代の住まいで大丈夫との事だった。

迅代は、聞いてしまった後に、そんな事までセレーニアに聞いたのは少しマズったかと思ったが、他にツテもないので仕方が無かった。


この事でもう少しセレーニア以外の知り合いを作るべきだと痛感した。

女性に聞けないことや、セレーニアに関する事を相談する相手が居ないのだ。

かと言って、ルーフやグリンに相談するわけにもいかない。

これは、難しいが、早急に解決するべき課題だ、と考えた。


それはさておき、身なりは普段着、応接室にコース料理を持ってきてもらう手配を行っていた。

普段は待女は1人で世話をしてもらっているが、今日は3人態勢となった。

これも手配のかなりの部分セレーニアに世話になってしまった。

全く生活力と言う面では、役立たずな迅代であった。


そうこうしているうちに、セレーニアが到着したようだ。

待女の一人がセレーニアを案内してくる。


迅代の前に現れたセレーニアは、普段の飾りの少ないシックな仕事用の装いとは異なり、装飾は控えめだが薄い黄色のドレス姿で現れた。

また、髪型もアップにして、舞踏会に居てもおかしくないほどに、髪飾りなどを付けて、着飾っていた。

迅代は一瞬見惚れてしまい『美しい』と心に中で思った。

「遅くなりました、ジンダイ様」

「本日はお招きいただき、ありがとうございます」

セレーニアがドレスの端を広げ、丁重な挨拶をする。


セレーニアの言葉にドギマギして迅代も応える。

「こ、こちらこそ、来ていただきありがとうございます」

「結局、いろいろと準備を手伝っていただき、申し訳無かったです」

迅代はこういった時の作法もわからず、とりあえずいつものように低姿勢で謝った。


迅代の応接室は、いつもはローテーブルにソファーであるが、本日は、座席とテーブルに置き換えられていた。

また、部屋の二カ所ほどに花瓶置きが置かれ一杯の花が飾られていた。

そして、六ケ所程の銀の蠟燭台が置かれ、部屋の中はかなり明るい状態であった。


「どうぞ、お掛けください」

迅代はセレーニアに着席を勧める。

セレーニアは会釈をし、待女の助けで着席をする。


二人が着席しているのを確認すると、待女がオードブルとスープを持ってきた。

そして、果実酒を飲むかと尋ねられ、二人ともグラスに注いでもらう。


「そういえば、この世界に来て、お酒を飲むのは初めてです」

迅代は照れながら、セレーニアに告げる。

「ジンダイ様は前の世界では、お酒を結構たしなんでいらっしゃったのですか?」

セレーニアが訪ねる。

「いやあ、缶ビール、と・・・えー、このぐらいの筒に入ったビールと言うお酒を1本飲む時が有る、といった感じですね」

身振りで缶ビールを説明する迅代。

「ビール、一度、飲んでみたいです」

迅代が好むというビールに興味がわいたようだ。

「いやあ、苦くて泡立つお酒で、あまり女性向けではないですよ」

「苦い、泡立つ・・・それは美味しいのでしょうか?」

「まあ、大人になると、苦い物も好きになるってやつです」

「そうなんですね、少し不思議です」

セレーニアはかわいく首をかしげる。

「それよりも、セレーニアさんもお酒が飲めるんですね」

「ええ、これも、貴族の娘のたしなみですね」

セレーニアは少し困ったような笑いを浮かべ答える。


コース料理が次々と運ばれてくる中、セレーニアとの話も弾んでいた。

「この果実酒、本当に美味いですね、飲みやすいし、アルコール度数もそこそこ高そうだ」

迅代は運ばれて来たメインディッシュを食べながら、3杯目の果実酒に口を付ける。


「・・・です」

「はい?」

セレーニアが何か言ったような気がしたので、迅代は聞き返す。

良く見ると、先ほどまで、他愛のない話で盛り上がっていたのだが、セレーニアはうつむいて突然黙ってしまっていた。


「ジンダイ様は・・・一人で戦おうとしないでほしいんです・・・」

セレーニアは少し前から持っている不安をぶつける。

「一人で戦うなんて、そんな、大それたことを考えてませんよ」

迅代は気軽く答える。


しかし、セレーニアは首を振る。

「違うんです。そうじゃなくて、責任のために自分を犠牲にする感じがしているんです」

「無理してほしくないんです」

「居なくなってほしくないんです・・・」

セレーニアは真っ赤な顔でうつむいて話す。


「・・・」

迅代は図星を突かれて、二の句が継げないで居た。

『確かに、俺は、最後の局面で、死をも選択肢に入れるかも知れない』

『それをセレーニアさんは悲しんでくれるのか・・・』

『だが、それを正面から今は否定できない、嘘になってしまう』

『力の無い勇者とは、これほど苦しい物なのか・・・』

そう思いながら、迅代はセレーニアのほうを見た。


「は?」


セレーニアはテーブルに頭を突っ伏していた。

「すぅ・・・」

「セ、セレーニアさん?」

迅代の声にも反応が無い。

「すぅ・・・」

「ね、寝てますか?」

ドレスアップされたセレーニアの装いで、テーブルに突っ伏している姿は、かなりシュールだった。

『そういえばセレーニアさんは酒を俺よりも多く飲んでいたような・・・』

『貴族のたしなみって、意地っぱりだったのか?』

控えている待女達も、クスクスと笑っている。


迅代は食事を切り上げ、セレーニアの馬車の御者を呼び、起こさないように、自宅に送り届けるように頼んだ。

「ううん・・・」

待女達に手伝ってもらい、セレーニアは馬車に運ばれていくが、まだ起きないようだ。


今日の事は無かった事にするべきなのか?、迅代の悩みが増えてしまった。

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