「休息日」
休息日の前日の夜、ルーフは城下町の酒場「クリーグス」に来ていた。
ルーフはクリーグスの常連で、時間のある時は、必ずと言って良いほど、立ち寄っていた。
「キャリル、ほら、土産だぜ」
そう言いながら、自分の座席のテーブルの上に、果物の袋を広げた。
「わあ、ルーフのダンナ、嬉しい!」
キャリルと呼ばれた女性は、大げさに喜んで見せた。
キャリルは見た感じは年齢40歳ほどの愛嬌の良いぽっちゃりおばさんと言う感じだ。
このクリーグスで給仕の仕事をしていて、客の軽口をさばいたり、話に加わったりして、場を盛り上げてもいる。
看板娘ではないが、客が気分良く酒が飲めるように、色々と気をまわしていた。
最近はルーフと言う古参兵が、しげく店に通って、プレゼントをくれる。
人の気持ちは受け取るタイプなので、大げさに喜んで、気分良くなってもらう、それも仕事だし人付き合いだと思っていた。
「えへへへ、果物、一番鮮度のいい奴選んだんだぜ」
ルーフは気をよくして、話し出す。
「まあ、ありがとー、家で美味しくいただくわ!」
「でも、最近、貰いすぎじゃないかい?悪い気もするんだけど・・・」
少しルーフを気遣うキャリル。
「へへん、大丈夫だって、俺っちは勇者様の部隊に配属されたんだぜい」
「ええ??勇者様?すごいじゃない!」
「それで、ボーナスが出て、ちょっと金回りが良いって事」
「そうなのね、でも、危険じゃないのかい?」
「うん?気にしてくれる?」
自分を気遣うキャリルの言葉に喜ぶ。
「もちろんだよ、ルーフのダンナがケガでもしたら大変じゃないか」
「まあ、俺っちは百戦錬磨の永年兵、手柄は立てなくても、命は落とさないってね」
ウインクするルーフ。
「油断大敵だよ、もういい年なんだろ」
キャリルの言葉に、酒を煽るルーフ。
「大丈夫でぃ。生き残る事には自信が有るんでぃ」
お酒が入ったルーフはどんどんと饒舌になり、そして気分が良くなり、さらに酒を頼んでいった。
ルーフはいつものようにキャリルと楽しく話して酔いつぶれ、深夜に兵練場の宿舎に戻った。
しこたま飲んだルーフは休息日は寝て過ごし、昼過ぎに起きるつもりだ。
長年兵役をこなしているルーフの家はこの宿舎なのだから。
休息日当日。
城下町の服屋の前に平服を着たグリンが立っていた。
休息日で休みの服屋の前を、うろうろとしている。
10分ほどうろうろした頃、服屋の二階の窓が少し開く。
ちょこんと若い女性の顔が覗く。
女性はグリンが居るのを見ると、顔を赤くして、ぱたんと窓を閉じた。
彼女はグレーテという18歳の女性で、グリンの婚約者だった。
細身のかわいらしい女性で、髪と瞳はブラウンだ。
すこしいつもよりおめかしした服装や髪型を、小さな手鏡で何度も確認していた。
「うん」
自分にOKを出したグレーテは、手鏡の代わりに机に置いていたバスケットを手に、外に出た。
服屋の裏口側から、グレーテがちょこんと顔を出す。
それを見つけたグリンが、笑顔でグレーテに声をかける。
「おはよう」
「おはよ・・・」
グレーテは控えめに挨拶を返す。
「じゃあ、行こうか」
グリンの声にグレーテはこくりと頷く。
少しの間、グリンが前、その後ろにグレーテという形で歩いていた。
だがグリンが突然、後ろを振り返り、グレーテの手を取る。
「・・・」
グレーテが顔を赤くして固まる。
「手をつないで行こう」
グリンは真っ直ぐにグレーテ見つめて言う。
グレーテはこくりと頷いて手を握り返した。
二人は城下町の外れにある森林公園に向かって歩き出した。
グリンはグレーテに話したいことがいっぱい有った。
勇者様の事、演習の事、普段の軍務の事、グレーテの事、そして将来の事。
自分がグレーテを幸せにする。
グリンのその気持ちに偽りは無かった。




