「リガルドパーティーの演習」
ガレーネパーティーの演習は、2つの陣地を見つけたため、時間より30分ほど早く終了した。
そこで、昼食も早く取る事にした。
セレーニアと馬車の御者が昼食を温めてくれていた。
おのおの、昼食を摂っていると、キノンが迅代に近づいて来た。
「隊長さん、女の子にも容赦ないね」
顔の迷彩ドーランが残ったまま昼食を摂っていた迅代は、あの女性の魔法士の事か、と思い出し答える。
「すまなかった、後で当人にも謝っておくよ」
キノンは少し声を落として言った。
「確かに、ココリんは戦闘となると狙われやすい。勉強になったよ」
キノンはそう言うと、手を振って自分たちのパーティーの所に戻って行った。
「隊長さんと何話してたんだ?」
ガレーネが戻って来たキノンに聞く。
「ココリんを傷モノにしやがって、ぐぉら!って言ってきた」
「傷モノじゃないし」
ココリはそっぽを向いて呟く。
「さあ、今度はビッグマウスのリガルドさんのお手並み拝見だね」
キノンはわざと聞こえるように声を上げて言った。
リガルドはグリーナ、イリナの三人で固まって食事を摂りながら、視線だけキノンのほうに向けた。
リガルドのパーティーは十三刻から十五刻までの時間で演習を行う。
食事を早々に切り上げて、迅代達スカウト部隊は森に入って配置に着く。
十三刻、演習の開始だ。
開始早々、グリーナは道の左側の森、イリナは道の右側の森に入る。
リガルド自身はゆっくりと中央の道を進んでいく。
それを見ていたガレーネは批判的に言う。
「やっぱりこの森に3人じゃ少ないだろ。あの獣人兄妹は。ひとりで二人分の働きをしないといけないな」
それに対してキノンが言う。
「ああ、いかにも少ないが、あの獣人兄妹は結構やるのかもね」
「狼の獣人だから素早いし、感覚も優れている。リガルドの自信もそこを信頼しているからかもね」
ガレーネは少しつまらなそうに言う。
「お前のそういう分析は大体当たるからなあ」
それにキノンが応える。
「ふふふ、ダンナ様をちゃんと支えてやるよ。わたしの言う通りにしていれば、ね」
ガレーネは遠くを見て言う。
「それは嫁に尻に敷かれてるって世間が言うヤツだろ」
兄のグリーナは常時駆け足の速度で森を駆け抜ける。
左側の森を隙間なく捜索できるよう、端から端で折り返しギザギザに進む。
この程度の森なら自分の体力の範囲内と見ていた。
20mほどの範囲内に人間が居れば気づく自信が有った。
グリーナが森を2kmほど入った所に差し掛かった。
「ひゅん!」
矢がグリーナを狙う。
結構長距離から射かけて来たようだ。
グリーナは軽々と矢を避ける。
そして、「ピューイ!」グリーナは笛を吹いた。
リガルドに隊長の攻撃が有ったことを知らせる笛だ。
しかしその後も動くのをやめない。
その後、矢は飛んでこなかった。
森の端まで進んだグリーナは折り返して道のほうに進む。
少し進んだ頃。
「!!」
グリーナは人間の気配を感じた。
『兵隊か?、隊長か?・・・』
この距離ではわからない。
『おそらく30メルト※ほど先か・・・さっき矢を射かけられたので隊長の可能性が高いが・・・』
※約18m
グリーナはそう考えながら、進む速度を落とし、警戒しながら進む。
「ザザッ!」
異音がしたかと思うと、目の前の地面が飛び上がった。
「ズザッ!」
グリーナは驚き、飛び上がった地面を避けるように転がる。
「ひゅん!」
地面に転がったグリーナに矢が向かう。
この姿勢ではさすがに避けることは出来ない。
「キン!」
グリーナに当たるかに思えた矢は、剣で叩き落された。
そこにはリガルドが立ちはだかっていた。




