「ガレーネのパーティ」
最初はガレーネのパーティが演習を行う事となった。
迅代たちスカウト部隊は、少し前に森に入って、展開済みだ。
十刻から始めて、十二刻までの二刻の間でガレーネパーティーが森の捜索を行う、
十二刻になれば、集合地点にいるセレーニアが笛を吹いて終了を知らせることになっている。
十刻になった。
この森は、直径4kmほどの円周状で、森の真ん中に通行用の道が1本整備されていた。
道は真っ直ぐではないが、少しくねっているだけで、素直に通れば迷いはしない、簡単な道だった。
無論、捜索対象の兵士はもっと道から外れた森の中に居るのだろうが。
ガレーネパーティーは、リーダーのガレーネとC級スカウトの獣人のザズで1チーム。
そして、B級スカウトのリボー、魔法士のココリ、そしてキノンと言うチームを作り、2チームで捜索を行うようだ。
道を隔てて左側の森に2チーム共にまず進むようだ。
2チームで森の中を分け進み、濃密に捜索しようという考えのようだ。
500mほど間隔をあけて、森に進む。
森の密度はさほど濃くは無い。
道で無い場所も、木々の隙間を通り抜けられるほどの場所は有った。
恐らく、迅代の奇襲を警戒して、お互いのチームが見える範囲で行動しようと言う考えなのだろう。
森を1kmほど入った所で、ガレーネチームの先頭を進むザズが足を止めた。
「人間が居る」
ガレーネが寄って来る。
「兵士のほうか?隊長のほうか?」
「わからない」
獣人は、聴覚、嗅覚、そして、第六感に優れていた。
また、身体能力も優れている。
「ヒュン!」
矢がザズを狙って放たれる。
「つうっ!」
ザズの脇腹に命中する。
しかし、ズザが着ている皮の服でも演習用の矢は貫けない。
同時に葉っぱの塊が上空から降ってきたように見える。
全身をカモフラージュした迅代だ。
木から飛び降りて、戦闘速度でダッシュし、ザズとガレーネに接近する。
接近しながら迅代はガレーネに目くらましの煙袋を投げる。
ガレーネに命中した袋は、盛大に粉状のモノが噴き出し、ガレーネの行動を怯ませる。
ザズのほうは、撃たれたショックと混乱で退避行動を取る。
迅代は、その後ろ姿の襟首を手でつかみ、引き倒す。
「サンダーボルト!」
「ぐはっ!」
迅代の至近距離での電撃攻撃にズザが昏倒した。
その間、約5秒ほどだった。
ズザの援護が出来なかったガレーネは、「くそ!」と剣を抜き、迅代に襲い掛かる。
「ギン!」
迅代はナイフを抜いて剣を受ける。
「フラッシュ!」
体勢を立て直そうと、ガレーネが目くらましの閃光魔法を放つ。
周囲が一瞬で眩しい光に包まれる。なかなか強力な閃光だ。
迅代も閃光にすぐ目を閉じたが、一瞬視力を失う。
だがガレーネもこの閃光を直視できない。
迅代は自分がダッシュしてきた道を思い出しながら転がりガレーネと距離を取る。
そして少し戻った視力と手探りでなんとか大樹の後ろに隠れた。
ガレーネは迅代を見失ったらしい。
周囲を警戒するガレーネに、次第に視力が戻って来た迅代はダッシュで撤退する。
ガレーネは追おうとしたが、思い止まり、ザズの様子を確認しに戻った。
「戦闘だ」
リボーがガレーネのチームの戦闘に気づく。
「こっちは捜索を続けるよ」
キノンが言う。
「助けないの?」
ココリがキノンに聞く。
「この演習は、妨害を退けて、目標を探す事が目的なんだよ、ココリん」
「あの隊長さんは、それを嫌がらせをするのが目的なんだよ」
ココリは少し拗ねたような顔で言った。
「ココリん言うなし」
ココリはキノンの馴れ馴れしさに慣れないでいた。
無論、自分を拾って迎え入れてくれたガレーネ、キノン夫妻には感謝しているのだが。
「じゃあ、こっちは進もう」
リボーが、さっさと前進する。
「こっちにも来るかも知れないから、用心はしてくれよ」
キノンはリボーに言った。
ガレーネはザズを気付け薬で起こした。
「う、ううう・・・」
ザズは意識を取り戻したようだ。
だが様子を聞くと、頭がくらくらして、聴覚が特に鈍っていると言う。
後は気付け薬で嗅覚もおかしいと。
「くそ、やりやがったな、隊長さん」
ガレーネは迅代の手際の良さに感心し、悔しがった。
「少し休んで後を追うので、ガレーネさんは進んでください」
ズザは言う。
『ズザの探知能力が使えないのは痛いが、領域全体を捜索出来ないと任務が達成できないかも知れない。』
『それを避けるには、とりあえず先には進んで、後追いでズザに確認してもらうしかないか。』
そう考えガレーネは単独で進むことにした。




