「ヘビの使徒との対話」
<そう、おまえのかんがえも、こえにださなくてもわかる>
ローブの男、ダイスはヘビの使徒の言葉を聞いて、ゴロツキ達に告げる。
「お前たちはそこで周囲を警戒してくれていれば良い」
「わたしは特別な方法で交渉相手と話をしている」
その言葉にゴロツキのリーダーは焦りを乗せた声で返答する。
「だ、大丈夫なんだろうな?」
無論、依頼主ではなく自分たちを心配しての言葉だ。
「ああ」
ダイスは努めて気楽な感じで答えた。
本心は大丈夫な保証など何一つなかったのだが、ゴロツキ達に変な動きをされては困ると考えたからだ。
ダイスはヘビの使徒のほうに振り返る。
<では、話をしよう。何故わたしを呼び出したのだ?>
ダイスは心に呟いてみる。
内心の不安な気持ちを表出させないように。
ヘビの使徒の返答が聞こえない。
ダイスが少し不安に思った頃、言葉が頭に響いた。
<ああ>
<たいせつななかまがころされてねえ>
<この、いかり、をどうすればいいか、かんがえていたんだ>
ダイスの心に恐怖心が沸き起こる。
報復として殺されるのではないかと。
<お仲間は残念な結果だった。だが、一人で魔王軍討伐部隊の兵舎に飛び込んだ、迂闊さも有ったのではないか?>
ダイスは素直に心に呟いて、しまった、と考えた。
相手を無暗に煽るような形は得策ではないと。
しかし、心で考えた事が伝わってしまうので、どうしても素直な感想が出てしまう。
<いうじゃないか、りょうしゅのむすこ、だいすよ>
基本的に頭に響く言葉には、感情は感じられない平坦な言葉だ。
しかし、ダイスの心理状態の問題か、語気に怒りを含んでいるようにも感じられた。
<うかつさ、もあった、それはどういする。しかしだ>
ヘビの使徒の言葉がそこで止まる。
<しかし、あれは、なみの、せんし、ではなかった>
<あれは・・・>
また言葉が止まる。
平坦に響く声からは、感情は読み取れない。
しかし、言葉のテンポが、怒りなのか、悲しみなのか、それに類するような感情を感じさせる。
もっとも、ダイスにとって、そんな事はどうでもいい事だった。
自分の素性は相手に握られ、相手の領域に身を置いている、言わば弱い立場だ。
そして腕力の面でも差は歴然であり、連れてきたゴロツキ3人など居ないに等しいだろう。
襲われた場合は、唯一金に飽かして手に入れた身代わりの魔術が付与されたローブを盾とし、ゴロツキを囮にして逃走を図るしかないだろう。
それでも、生き残れる確率は10%も無いだろうが。
ヘビの使徒の声が響く。
<そう、かりはかえさないと、おさまりがつかない>
<にんげんどもにも、そうおうのそんしつを、あたえねばならないな>
その言葉を聞いて、ダイスは反射的に言葉が浮かぶ。
<まさか、わたしを??>
しかし、それを否定するヘビの使徒の声が響く。
<・・・ふん>
<きぞくというのは、みのほどをしらぬ。おまえのしに、どれほどの、かちがあるというのだ>
ダイスはその言葉を聞き、ヘビの使徒は、自分の事など全く重要視していない事を悟る。
内心はホッとしたが、同時にプライドも傷つき、体の熱が上がる。
<かんじょうをたかぶらせるな、だいすよ>
<おたがい、りえきがあるから、こうして、はなしをするばをつくっている>
<いいかたがわるかったが、おまえがしぬことにかちはないが、いきることでかちがあるのだ>
ヘビの使徒も敵対することが良い方向に進まないと判断して、言い訳じみた事を話す。
相手が引いたのを見て、ダイスも冷静さが戻ってくる。
<う、うむ、それは言う通りだな>
どのみち、ダイスには相手をやり込める方法もない状態で敵対など無謀だった。
小さなプライドで命を落とすこともない。
<では、あなた方は、何を欲すると言うのだ?>
<もうリシュターは攻め落とす事など出来ないだろう>
ダイスとしては、リシュター攻略に失敗した魔王軍の関係者など、さっさと去ってほしいと思っていた。
<ゆうしゃじんだい>
ヘビの使徒の声が響く。
当然だろう、紫のローブの魔族の女を倒して人物。
<こやつのくびが、こんんかいのことの、けっちゃくをつけるのに、ふさわしいしなものだ>




