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「呼び出し主」

薄気味悪い男は振り上げたこぶしをゆっくりと収めた。


ゴロツキのリーダーは頭を潰される所から命拾いしたのだが、直ぐに腐敗臭に顔をゆがめた。

それほど人間の本能を刺激するイヤな臭いだった。

直ぐにでも鼻をつまんで顔を背けたい衝動に駆られたが、ゴロツキとは言えその者たちを従えるアニキとしてのプライドが押しとどめていた。


もっとも、配下の2人のゴロツキは、そんなアニキの気持ちにお構いなく鼻をつまんでウゲーと言っていたのだが。


薄気味悪い男と睨み合った視線を外し、ローブの男に視線を向ける。


ローブの男はローブの裾で鼻と口を押さえつつ、ゴロツキのリーダと視線を合わせ、視線を薄気味悪い男に移す。

そして口を開いた。


「呼び出されて来た。通してほしい」


その言葉に無表情な薄気味悪い男。

しかし、少しの沈黙の後、首をクイっと酒場の扉のほうに振る。


入れという事らしい。


一応、雇われた手前、ゴロツキのリーダーが先頭に立って酒場に入る。

その後ろに慌てて配下のゴロツキが従う。


その後ろからローブの男が付いてくる。


ゴロツキのリーダーだけが前を向いて進んでいる。

未知の状態に恐れの気持ちは有るはずだが、どうやら意地だけは一人前のようだった。


しかし、配下のゴロツキも、雇い主であるローブの男も視線を周囲に動かしている。

ローブの男は何度かこの酒場には来たことがあるのだが、マルクが小さな魔物に取り憑かれて以来、自分も襲われることを恐れていた。


店内を進んでいくと、いつも魔王軍の女が立っていた位置の床に、黒い何かが見える。

目を凝らして、何か判別しようとするゴロツキのリーダーの男。

「ヘビ・・・?」


つぶやいたゴロツキのリーダーの声を聞いて、ローブの男は口を開く。

「止まれ」


ローブの男は以前マルクとここに訪れた時に、斬り落とされたマルクの指を食べたヘビの事を思い出した。

そう、そのヘビが魔王軍の英雄の使徒だと言われていたことを。


立ち止まった一団から、ローブの男は前に進み出て言った。

「あなたがわたしを呼び出したのか?」


<よくわかったねえ>

頭の中に声が響く。


「あ、ああ、マルクの指を食べた。そして、あの紫のローブのお、女性が英雄の使徒だと言っていた」

ローブの男は黒いヘビと普通に会話をしているつもりだが、周囲のゴロツキ達は変な顔をしながらキョロキョロと周囲を窺っていた。


<そんなに、くわしくはなして、だいじょうぶなのかい?りょうしゅのむすこ、だいすよ>

その言葉にローブの男はギョっとして、ゴロツキ達を見た。


ゴロツキ達には自分の身分を隠して、護衛の仕事を依頼した。

しかし、ヘビによってそのことがばらされたのだから。


しかし、ゴロツキ達はヘビの発した言葉に驚く素振りもなく、まだキョロキョロとしている。

そう、聞こえていないように。


ローブの男、リシュター領主の息子、ダイスはようやく察しが付く。

ヘビの声は自分にしか聞こえていないのだと。


それなのに、自分の依頼主が誰かと話しているような言葉を発しているのを聞いて、ゴロツキ達は混乱していたのだった。

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