「夕焼け」
ジールのじいさんと必要な打ち合わせを終え、迅代とセレーニアはデトナ村を後にして、馬車で城下町に向かっていた。
今日の外出は迅代にとって、収穫の多いものとなった。
冒険者メンバーがどんなレベルの者達が来るかわからない不安も有るが、最初に思い描いていた索敵部隊の体裁は整いそうだった。
本当は偵察時に敵に隙が有れば奇襲攻撃を行う、索敵強襲部隊の整備もしたかったが、あのボーズギア皇子の見識では望むべくも無いだろう。
まずは正式な隊員2名を使えるようにし、折を見て隊員を増やす事からか、そう迅代は考えていた。
当面はボーズギア皇子とぶつかっても、勝利に貢献できる形を模索するしかない、そう考えていた。
「あの・・・」
セレーニアが控えめに声をかける。
「はい、なんでしょう?」
迅代はいつものように返事をしたが、セレーニアは何か遠慮がちだった。
「どうか、しましたか?」
『もしかしてお金の事かも??・・・使い過ぎたのか??』
ふとそんな事が頭をよぎり、じんわり汗が出て来る。
「いえ、その、少し、ジンダイ様の事を聞いても良いでしょうか?」
セレーニアはいつになく、遠慮がちで顔も少し赤いようだ。
「はあ・・・」
迅代は想定していなかった言葉に少し驚く。
セレーニアとはかなりの時間一緒に過ごしているが、あまりプライぺーとな事を話したことは無かった。
そもそも何歳なのかも知らなかった。
迅代としては異国の外交官が、賓客のために誠心誠意尽くしてくれている。
招かれた自分も、それに応えるために自分も努力している。
といった仕事相手のような感覚で接していた。
『もしかしたらこの国の文化とかで男がこうするべき、とか、女はこうしないとみたいな事が有るのかもしれない』
迅代は恐る恐る聞く。
「たとえば、どんなことが知りたいですか?」
その言葉にセレーニアは更に顔を赤くして言う。
「その、個人的な事を聞いても良いでしょうか!?」
『これはもっと人間同士がフレンドリーに接するのがこの国の文化だったのか?』
『それとも、一人で異世界に来た俺に気を使って、気軽な話し相手にでもなろうと言うのだろうか?』
そんな事を考えながら迅代はセレーニアに応える。
「えっと、そうですね、では、簡単な個人プロフィールでもお話ししましょうか」
そう言って迅代は自分の事を話し始めた。
年齢は25歳、独身で、両親は健在、兄弟は弟と妹が居た事。
学校を卒業してすぐに軍隊に入った事。
向こうの世界の軍隊では、この国で言う5年兵ぐらいのキャリアであった事。
趣味は一時期登山やキャンプに凝っていたが、最近は動画鑑賞しかしていない事。
動画鑑賞はセレーニアは分らなかったが、場面を見たままで記録する機械が有り、その場面をいつでも見ることが出来る機械が有る。
と説明してみたが、さすがにちんぷんかんぷんのようだった。
「どうです?知りたい事はわかりましたか?」
迅代は熱心に聞いていたセレーニアに言う。
「ええ、興味深かったです」
顔の赤みが残った笑顔で答えるセレーニア。
迅代は仕事以外の会話を若い女性とするのはかなり久しぶりか、と思い返した。
『あのスーパーの店員の女の子とも、こうやって話してみたかった・・・』
向こうの世界で少し良いな、と思っていた女の子の事を思い返す。
こう話してみると、いつもの仕事の会話と異なり、セレーニアの可愛さの部分が見えたような気がした。
「で、では、わたしもお話ししますね」
少し視線をそらせて、窓の外を見ながらセレーニアが言う。
セレーニアの頬に夕日がさす。
上気した顔にオレンジ色の夕日が当たり、美しい顔がより印象的に見えた。
「わたしはヴィジランテ公爵家に生まれて、今は20歳になります」
「B級魔法戦士の資格と、A級外交官吏の資格を持っていて、今は城の外交部局に籍を置いています」
「わたしにも弟が居ます。もう成人しているので、家督は弟が継ぐでしょう」
「この年齢になるとそろそろ結婚を、とも言われるのですが、皇女殿下を支える事が今は一番の優先事項を思っています」
「そして魔王軍の脅威が有る中、ジンダイ様の従者として精一杯努力するつもりです」
「その、趣味は、あまり熱心では無いのですが魔法の付与されたアクセサリーの収集です」
「あまり、殿方と個人的な事を話したことが無く、何を話してよいのか分からないのですが・・・」
「不束者ですが、どうぞ、よろしくお願いします・・・」
なんだか見合いのようになってきたな・・・と迅代は変な気持ちになる。
「そうですね、召喚でとは言え、折角結ばれた縁なのですから、お互いをもっと知るのも良いですね」
「では、今度、仕事抜きで夕食でもご一緒してもらえますか?」
セレーニアが精一杯の気持ちで言い出してくれた事だ。
迅代は受け入れてあげようと思った。
「その、よろしくお願いします・・・」
セレーニアは顔を赤くしたまま口ごもって答えた。
そろそろ城下町の堀が見えてきた所だった。




