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「階段の遭遇戦」

「すみませーん、お茶下さい」

オーリアは補給部隊が設営している、給仕室に着くと、近くの兵士に声をかける。


「奥の壁の前に置いてある容器から勝手に入れて行きな」

側にいた補給部隊の兵士が親指で部屋の、オーリアから見て右側に並んだ壺を差す。

壺は4つほど並んでいた。


「どれも違いは無いの?」

オーリアが聞くと、先ほどの兵士が答えてくれた。

「一番端の小さい壺は出来立てで熱いのが入れてある」

「そのまま飲むとヤケドするぞ」

そう言って兵士は部屋を出て行った。


まだ部屋の中には数人の兵士が居て、物品の在庫を数えているようだった。

「お茶、いただきまーす」

オーリアは少し遠慮がちに言うと、部屋に入って壺の前に進む。


確かに右端の壺はかなり湯気が出ていて熱そうだった。

そこで、オーリアはちょっとした悪戯を思いつく。

アークスのカップに熱い茶を入れて行ってやろうと言う訳だ。

文句を言われたら、上官に熱いお茶を飲んでもらおうと言う心遣いだ、というイヤミ兼言い訳を用意して。

熱い!と言って渋い顔をするアークスを思い浮かべると、ちょっと気分が晴れる気がした。


「うぅ、、、熱い」

オーリアは金属のカップを指先で持ちながら、ゆっくり指揮官の首の安置室に戻ろうとしていた。

しかし、悪戯のために熱い湯を入れたカップが、思いのほか熱く、左右の手で持ち替えながら、こぼさないようにゆっくり進んでいた。

オーリアは、正直、しょうもない思い付きをしたものだと少し後悔していた。

しかし、始めた「作戦」だ、完遂しないと、という気持ちだけで、進んでいた。


オーリアが階段に差し掛かり、熱いカップを又持ち換えていると、ふと視界に何かが動いた気がした。

「ん?」

オーリアは視線を巡らせる。

周囲に人影はなく、目の前には階段が続いていた。

しかし、階段を上った所に、茶色い石のようなものが有る事に気づいた。

「ん????」

オーリアは目を凝らす。

視力は良い方だったので、なんとなく、詳細が見えて来る。


「カエル???」

後ろからではあるが、ヒキガエルのように思えて来た。

よく見ると、ジリジリと前進しているようで、階段の登った所で、姿がだんだんと小さくなっている。

オーリアは本当にカエルなのか確認しようと、ソロリと階段を上り、接近する。

本当にカエルならオーリアとしては捕まえて食料にしようと言うつもりだった。


まずい、見つけられたか。

そう思いながら、カエルのような物の意思を操る者が焦る。

仮の兵舎での兵員の出入りが収まったのを機会に、見つからないように侵入してきた。

そして、感覚を研ぎ澄まし、人が来れば隠れてやり過ごしたりして、ここまでは見つからずに侵入できた。

周囲に気を付けてはいたが、熱いカップをゆっくり運ぶオーリアを感知するのが遅れたため、飛んで階段を上る姿を見られてしまったようだった。


後ろから追って来る兵士はゆっくりと警戒しながら接近して来る。

間違いなく、正体を暴こうとする動きだ。

カエルのようなものの意思を操る者は隠密行動を諦めて襲撃態勢に移行する。


このカエルのようなものも戦闘力は多少持っていた。

魔力により増大させられる伸びる舌、それと、毒液だ。


頭が見えた瞬間に、伸びる舌で攻撃し、怯むか、倒れるかした所で、舌で首を締め上げて殺すつもりだ。


カエルのようなものは、だんだんと階段を上って来る兵士を感知能力で感じる。

カエルのようなものは階段の下側に向かって体を向けて、舌を伸ばす準備をする。


カエルのようなものはカエルから派生した魔物なので、動体視力はカエル譲りだ。

反射速度で負ける事は無い。

階段を上る頭が見える。

相手はまだ、攻撃態勢で待ち構えているとは考えていないだろう。

ゆっくりと人の頭が階段から顔を出す。


「ビシュ!!」

カエルのようなものは舌を伸ばし、登って来る兵士に向かって一撃を加える。


「うわ!!」

突然、頭を強く小突かれたオーリアは後ろにのけ反る。

バランスを崩し、階段を転げ落ちそうになるが、必死で堪える。


その様子をカエルようなものの意思を操る者が見てほくそ笑む。

想定通りの動きだ。

バランスを崩したオーリアは両手を振り回し、階段から落ちまいと必死でバランスを取ろうとする。


首筋は無防備だ。

小突いてさらに突き落としても良いのではないか?

そう思い、カエルのようなものは、二撃目の舌を伸ばす。


「バシャ!!」

カエルのようなものに、放り上げられたアークスのカップの熱いお茶が直撃する。

「ゲゥエエエェェェエェェエェ!!!」

感覚を共有していた、カエルのようなものの意思を操る者、魔族の紫のローブの女は突然全身に浴びた熱湯の熱さに転がりまわる。

特に目が露出しているカエルの形態から、熱湯の直撃はかなりのダメージを受けた。


カエルのようなものは、伸ばしかけた舌を中途半端に出した状態で、腹を見せながら転がりまわっていた。

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