「任務の割り当て」
「この生首は勇者ザーリージャ様が討伐した悪魔の指揮官だ」
「この生首を皇都まで保全に心がけ、運び込む」
ぐるっとアークスは部下を見渡す。
部下たちは嫌な顔をしてアークスを見つめていた。
特にオーリアは変なものでも食べたように舌まで出して嫌がる表情を見せていた。
そんな中、冷静な素振りのヴォルカが口を開く。
「動いたりしないんですか?」
「あ、あと、腐った匂いとかしないんですか?」
ヴォルカはそう言いながらくんくんと匂いを嗅ぐ。
「安心しろ、半日ほど、警戒して勇者ヴィンツ様が手元に置いていたそうだが、全く動かなかったそうだ」
「さすがの悪魔も首を飛ばされれば、絶命するのだろう」
アークスが少し自慢げに聞こえる感じで言った。
そんなアークスを見て、ヴォルカは警戒心が無さすぎる、と評価した。
もっとも、ヴォルカは逆に心配が過ぎる部分も有るのだが。
「それに、魔法攻撃部隊のAクラス魔法士が生首に停滞魔法をかけて数日は体液も匂いも漏れ出さないらしい」
アークスは再び自慢げに言うが、ヴォルカはそれ以降はどうするんだよ、と心に中で考えていた。
皇都までは5日はかかると踏んでいるのだが、そこまで停滞魔法が持つのか分からなかった。
「本部部隊参謀の命令でもあるが、勇者ヴィンツ様からも直々の依頼が有った」
「これを辞退するわけには、いかないだろう」
アークスは完全に命令を履行する姿勢だった。
さすがにヴォルカも勇者ヴィンツからも頼まれたと聞いて、辞退は出来なかったのだろうと諦めた。
「具体的には、どう守っていくんですか?」
ヴォルカは任務の具体的な履行方法について質問する。
その問いにアークスはしっかり答えを持っている、という感じで頷いて、言う。
「当面は3グループに分かれて、順番にこの荷物を警護する」
「ロングボウチームは3人づつ、2グループを作れ」
「後は、護衛チームの2人を1グループとして、合計3グループだ」
「順番はロングボウAグループ、Bグループ、護衛チームグループとしよう」
「不都合が有れば後ででも言ってくれ」
「では、早速」
アークスが矢継ぎ早に言いながら手に持った荷物を前に差し出そうとしたが、ヴォルカが声を上げる。
「アークスさんは参加され無いのですか?」
ちょっと嫌な顔をしてアークスは差し出す手を止めて言った。
「俺は指揮官だからな・・・」
そう言って言い淀む。
命令を伝えて逃げ切れると考えていたため、その言い訳を深く考えていなかった。
「そおっすよ、こんな気味悪い物を2人で守れって、酷くないですか??」
オーリアもアークスを睨みつけて不満を言い出す。
アークスは視線をロングボウ兵士たちのほうに逸らすが、ロングボウの兵士たちも口をへの字に結んでアークスを見つめていた。
ロングボウの兵士たちもこの任務を快く思っていないのと、最近オーリアとヴォルカがアークスに良く意見しているのを聞いて、何でも言う事を聞くような感じではなくなっていた。
「・・・・」
少しの沈黙が流れる。
「うむむ、わかった、では、リシュターを出るまでは、私も護衛チームと一緒に任務に参加しよう」
「恐らく2日ほどで出立するだろうから、その時点で何も無いようなら、グループ編成を2名4チームにでも変更しよう」
アークスは少し後ろめたさも有ったので、自分も任務に参加する旨を伝えた。
「アークスさんが一緒なら、まあ、良いです」
オーリアはそう言って、矛を収める。
ヴォルカやロングボウ兵士たちも頷いて納得したようだった。
とりあえず2日ほどの我慢だと自分に言い聞かせてアークスはため息をついた。
アークスは内心では、この「荷物」の近くに居るのがかなり嫌だった。
そこで、何も起きないだろうから部下たちに押し付けて少しでも「荷物」近くに居たくないと考えていたのだった。
そんなやり取りを、5mほど離れた場所で、ヒキガエルのような、よく見ると少し異質な生物が眺めていた。




