「嫌な任務」
西門の通りに沿って敷かれた防御陣地では守備していたリシュター領地軍の動員兵士たちが、作戦の終了を喜び合って撤収の準備を進めている。
しかし、魔王軍討伐部隊 陽動攻撃部隊の面々は、隊長が不在のため次の行動指示が無く、持ち場の陣地を動けないでいた。
「早くベットで寝たいんですけど」
オーリアは陣地の中で膝を抱えて俯いていた。
折角作戦が終った状態なのに、陣地から早く解放されたい気持ちを言葉に出す。
その横で、ヴォルカは同じように膝を抱えながら座って居るが、頭は上げていた。
そして、素直に不平が言えるオーリアの事を羨ましくも思っていた。
部隊の他のメンバーである弓兵たちは少し離れた所でタバコをくゆらせながら談笑している。
そんな様子をヴォルカは見つつ、一緒に交じるような柄でも無いので、オーリアの横で意味も無く座っていた。
そこに、なんだかいつもと違った歩き方をしているアークスが帰ってきた。
違和感の正体は、片手にぶら下げている荷物が体に触れないように、ちょっと腰が引けた歩き方になっているからだった。
その荷物は、鳥かごに布をかけたようなもので、あまり重くは無さそうだった。
アークスはオーリアとヴォルカが居るのに気づいたらしく、一直線でこちらに向かって来る。
ヴォルカは指でちょんとオーリアの腕をつつく。
「ん?何??」
オーリアは俯いた顔を上げる。
そんなオーリアに、ヴォルカは向かって来るアークスの姿を指さす。
「はー、やっと帰れる」
オーリアは嬉しそうに立ち上がり、自分の荷物のほうに向かって撤収の準備を始めようとする。
しかし、ヴォルカは嫌な予感しかしていなかった。
あの不自然な格好で片手に持ってる荷物は何なんだと。
ヴォルカは膝を抱えたまま座り姿勢で、アークスのほうに視線を向け続ける。
表情が読み取れる距離までアークスは近づいて来たが、微妙な笑顔のような表情をしている。
ヴォルカは、嫌な予感が3倍ほど増した気がした。
「何ですか?ソレ」
ヴォルカはアークスに問いかける。
ヴォルカの問いには答えず、アークスは口を開いた。
「おお、みんなを集めてくれ」
アークスの声に、近くで談笑していた弓兵たちもアークスに気づく。
「早く帰りましょうよー、もう作戦終ったんですよね?」
オーリアは自分のバックパックを背負って、帰る準備は万端と言った格好だ。
「あー、とりあえず、みんな集まってくれ」
オーリアの言葉にも答えず、アークスは部下の兵員たちに集まるように告げた。
面倒事を持ってきたんじゃ?と勘のいいヴォルカは思いながら、アークスの顔を睨む。
アークスはヴォルカに視線は合わさず、弓兵たちのほうを見て言った。
「えー、こほん」
「我が陽動攻撃部隊に重要任務の下命が有った」
アークスの言葉に間髪入れずにオーリアが不平を言う。
「えー!?帰れるんですよね??」
オーリアの言葉にアークスは少し言いよどむ。
「あー、ああ、リシュター市街には一旦戻る」
「戻るが、この荷物を守って戻る」
「これから皇都にも帰る事になるとは思うが、この荷物を守って皇都に帰還する」
「それが、今回、我々に与えられた任務だ」
「??その荷物って、なんですか??」
オーリアはずけずけと質問する。
「それが、だな」
アークスはそう言って少しづつ鳥かごの布を引き上げる。
「ひいっ!!!」
中に見えた生首にオーリアは悲鳴を上げて尻餅をつく。
ヴォルカも、他の弓兵たちも、声こそ出さなかったが、目を見張って驚いた表情を示す。
そこには黒いプレートメイルのフェイスガードを上げたヘルメットの中に白目を剥いた悪魔の生首は収められていた。




