「重要任務」
「なんだ?折角休めると思ったんだが、何の用事だ?」
魔王軍討伐部隊 陽動攻撃部隊の隊長である、騎士アークスは、やって来た伝令の兵士の呼び出しにいぶかしんだ。
陽動攻撃部隊は、魔王軍との決戦場である、東門、南東門、北東門の戦場にはおらず、万が一の事態に備え、西門の守備を行っていた。
そして、ようやく、魔王軍を撃退した状況に、ゆっくりと休めると思っていたからだ。
「至急の要件との事で、参謀長閣下が急ぎ顔を出してほしいとしか・・・」
伝令の兵士に絡んでも仕方が無い事であったが、アークスは不満そうな顔で伝令の言葉を聞いていた。
「わかった、わかった、準備して司令部に顔を出す」
「そう伝えておいてくれ」
アークスは渋々、承知した旨を伝令に伝えた。
伝令としては、これ以上絡まれてもかなわないと考えて、そそくさと去って行った。
その様子を、オーリアとヴォルカが見ていて、顔を見合わせていた。
「やっぱり、また何か任務を割り当てられるのかな?」
オーリアが迷惑そうにヴォルカにささやいた。
「そうみたいだね。アークスさんが上手く断ってくれればいいけど・・・」
ヴォルカはそう言ったが内心は無理だろうなと考えながらアークスの動きを見ていた。
司令部馬車は北東門内のリシュター市街地内に止まっていた。
巨大で頑丈そうなその司令部馬車は、リシュターの市街内では非常に目立っていた。
しかし、呼び出されたアークスは、その近くのリシュター領地軍の兵士詰め所に案内された。
司令部馬車ではボーズギア皇子が休んでおり使えないとの事だった。
アークスはボーズギア皇子と顔を合わせなくて済むことに少しホっとしていた。
ボーズギア皇子直属の部下であった時は身を挺して守る覚悟を持っていた筈なのだが、心が離れてからは、対面する事すら苦痛に感じていた。
自分の事をまるで駒、いや、ただの駒ではなく捨て駒のように扱われた経験がアークスの気持ちを完全に裏返らせてしまっていた。
参謀長が待つ部屋にアークスが入室すると、参謀長と参謀の一人、そして、勇者ヴィンツが居た。
「陽動攻撃部隊 騎士アークス、参りました」
アークスは勇者が居る事に驚きながらも、呼び出した参謀長に挨拶をする。
「ご苦労」
参謀長はそう言いながら着席を勧めた。
「どういったご用件で呼び出されたのでしょうか?」
アークスはそう言ってちらりと勇者ヴィンツを見る。
やはり勇者が同席している事が気になって仕方がない。
そんなアークスの態度を気にせず、参謀長委は口を開く。
「陽動攻撃部隊に臨時の任務を与える」
「現時点より、皇都へ着くまで、重要運搬物の保全管理を行ってもらう」
「重要、運搬物、ですか?」
アークスはピンとこない様子で聞き返す。
「ああ、魔王軍との戦いに重要な役割を果たすかもしれない重要物だ」
「全力で保全し、無事に皇都まで守ってもらいたい」
参謀長はそう言うと、そばにいる参謀に合図した。
すると参謀は、後ろにある布で隠された鳥かごのようなものを運んできた。
心なしか、その参謀の態度は恐る恐ると言った感じでぎこちなかった。
アークスがいぶかしんで様子を見ていると、「見せろ」と参謀長が声をかけた。
鳥かごを運んできた参謀は少し嫌な顔をして、布を上げて鳥かごの中を見せた。
「な、なんですか?コレは・・・」
アークスは思わず声を上げた。
「魔王軍の指揮官の首だ」
参謀長がぽつりとつぶやく。
一瞬言葉が出なかったアークスだが、この首を皇都まで保全して運べという事だと理解した。
「い、いや、無理でしょ、腐るでしょ」
アークスは思わず、自然な口ぶりで文句を言った。
しかし、参謀長は言った。
「大丈夫だ、防腐の魔法をかけてある。匂いなども漏れ出てはこない」
「いや、いやいやいや、む、無理でしょ」
たとえ腐らないとは言え、こんな薄気味の悪い悪魔の死体の首と一緒に行動するなんて拒絶感しかなかった。
そんなアークスの態度をジロリと睨み、参謀長は言った。
「これはボーズギア司令官閣下の指示であり、命令である」
「今回の反攻作戦ではあまり活躍の無い貴殿の部隊に少し働いてもらおうという事だ」
「拒否はできない」
さすがにここまで言われては、気味が悪いと言うだけでは命令を拒否できない。
しかし、拒否感が強くすぐに言葉が出ない。
上手く言い訳して任務を辞退したいが、そんな反射神経をアークスは持っていなかった。
そんな状況で少しの沈黙が有った後、勇者ヴィンツが口を開いた。
「この首は間違いなく重要な資料なのだ」
「万が一に備え、非戦闘部隊である輸送伝令部隊に任せる訳にはいかない」
「申し訳ないが、お願いする」
勇者ヴィンツにもこのように言われれば、従わざるを得ない。
「・・・わかりました、お預かりします」
アークスは仕方なく、任務を受け入れる事にした。




