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「魔王軍の指揮官」

「こ奴か・・・」

ボーズギア皇子は司令部馬車から案内されて転がっている悪魔の指揮官の前に進み出る。


「あまり、近くには・・・」

そう言いながら、ボーズギア皇子の前に、護衛の騎士が進み出る。

しかし、その騎士も、黒いプレートメイルを身に纏った悪魔の指揮官には少し怯えているようで、腰が引けていた。


「あれほど、鎖で絡め取られていては自由には動けまい」

ボーズギア皇子は地面に転がってグルグル巻きにされている姿を見て、完全に油断しているようだった。


ボーズギア皇子の少し後ろに、護衛として立ち会っている勇者ザーリージャが立っていた。

ザーリージャはいつもの無表情な面持ちで、転がっている悪魔の指揮官を見ている。


ボーズギア皇子のはす向かい、悪魔の指揮官を挟んだ向こう側に勇者ヴィンツが油断ない視線で見守っていた。


この護衛体制も、ボーズギア皇子が余裕の態度を取っている理由の一つだった。

周囲の者たちに悪魔の指揮官など恐れてはいないという格好をつけるのも、この視察の目的の一つだった。


「ヤツと会話は出来るのか?」

ボーズギア皇子が側にいる参謀に質問する。


「それが、こちらの問いかけには一切答えず、会話が可能かもわからない状況です」

参謀がそう答えると、ボーズギア皇子が少し考えた顔をして口を開く。

「魔族語で聞いてみたのか?」

その問いに参謀が答える。

「はい、小官は挨拶程度ですが、魔族語が分かります故、問いかけましたが・・・」

「全く反応を示しません」


ボーズギア皇子は参謀の言葉を聞きつつ、少し悪魔の指揮官のヘルメットの隙間から中を覗き込むように視線を向けた。

「ひぃ!」

ボーズギア皇子は一瞬ビクンと体を震わせ、声を上げて後ずさる。

ボーズギア皇子が見た悪魔の指揮官の視線は鋭く、とても負けを認めて服従したような雰囲気は感じられなかった。

それ以上に、視線を見つめたボーズギア皇子は威圧感を感じ、委縮する気持ちに襲われた。


「あれは、威圧をかまされたな」

周囲に集まった冒険者の一人が小声で言ったが、周囲が静かだったため、思いのほか声が響いた。

その冒険者の仲間らしきものがその言葉を受けて小声で言った。

「威圧ぐらいでビビってるようじゃ戦場では役に立たねえな」

その言葉を聞いて、周囲の冒険者たちが失笑する。


その会話と、周囲が失笑する様子を認めてボーズギア皇子の頭に血が上った。

「こ、こヤツ、まだ降伏しておらん!思い知らせるために痛めつけよ!」

ボーズギア皇子は転がっている悪魔の指揮官を指さして、護衛の騎士に命じる。


「し、しかし・・・」

護衛の騎士はどちらかと言うと実力が底が知れない悪魔の指揮官を攻撃する事に恐れを感じて手を出せないでいる。

「ええい、私がやる!槍を持て!!」

ボーズギア皇子は槍を持ってくるように伝えた。

無論、接近せずに悪魔の指揮官を痛めつけるためだ。


そんな様子を見ていて勇者ヴィンツは、ため息をつく。

無論、敵の指揮官の心を折って服従させるための所業である事は分かっていた。

だから、止めには入らなかった。

しかし、そんな事ぐらいで服従するようなタマでも無いとも思っていた。


槍を手にしたボーズギア皇子は、地面に転がる悪魔の指揮官の、プレートメイルの隙間目がけて槍を突き立てる。

何度も、何度も。

しかし、悪魔の指揮官は槍の攻撃を受けても身動きせずにされるがままだった。


ある程度の手ごたえを感じたのか、ボーズギア皇子の表情が余裕の笑みを浮かべる。

「思い知ったか!下賤な悪魔め!!」

そう言いながら、槍を突き立て続ける。


その様子を、ボーズギア皇子の後ろで冷めた瞳で勇者ザーリージャは見つめていた。


20回ほど槍を突き立てて、ボーズギア皇子の勢いが無くなって来る。

「はあ、はあ、はあ」

激しく槍を突き立てて、ボーズギア皇子は、息切れしていた。


「これほど痛めつければ、思い知ったであろう!」

ボーズギア皇子は自身が悪魔の指揮官にダメージを与えたと誇示したいがため、周囲に聞こえるように殊更大きな声で言った。


「ガギン!!!!」

その瞬間、転がっていた悪魔の指揮官を拘束していた鎖が散り散りに飛び散る。

同時に黒い瘴気と共に大きな衝撃波が周囲を襲う。


「ギャ!!」

ボーズギア皇子は飛び散った鎖の一部が勢いよく体に当たり、昏倒する。


飛び散った鎖は周囲に集まった者たちにも直撃する。

「うわ!」「ぎゃ!」

勇者ヴィンツにも切れた鎖の一部が飛んできたが、瞬間で避けていた。

そして、自身の剣、ガブルジーンに手を添え、正に抜こうとした。

その瞬間。

鎖を引きちぎり、立ち上がってボーズギア皇子に突撃する体勢を整えた悪魔の指揮官の首が飛んでいた。


勇者ザーリージャが自身のショートソードで悪魔の指揮官の首を掻き切り、飛ばしていた。

強固な黒いプレートメイルをものともせずに。


「ドン!」

悪魔の指揮官の首が地面に落ちる。

そしてゆっくりと体が倒れ込んだ。

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