「アリーチェの話」
迅代と話を終えたジェーナは、アリーチェの座る場所の少し後ろに歩み寄った。
「ジェーナ、緑の勇者の人とのお話終ったの?」
アリーチェは屈託のない笑顔で振り返ってジェーナに問いかける。
それを聞いたジェーナはにこりと微笑んで、アリーチェに返事をする。
「ええ、ジンダイ様とのお話は終わりました」
そう言うジェーナの顔を見て、アリーチェは次の言葉を待つ。
一拍置いて、ジェーナは口を開いた。
「皆さまとは何をお話になっていたのですか?」
アリーチェがいつもと違って、人と積極的に話しているようだったので気になって聞いた。
しかも恐らく初対面の人たちと。
「えーっとね、どんなお菓子が一番おいしいかって言ってたの」
アリーチェは一所懸命、話していた内容を思い出しながら、ジェーナに説明を始めた。
「獣人の・・・イリナ!は北のスノーランドの雪みたいなクリームを挟んだ薄皮パンがとってもおいしいって!」
「それと、騎士の、アレジアさん!実家のオレンジパイがすっごくおいしいんだって」
うんうんと頷いて話を聞くジェーナ。
「あとね、道具屋さんのリォン、リーネ、さん?は木の実を潰してぐちょぐちょにして甘く味付けした餡がお好みなんだって!」
「アリーチェも食べてみたい!って言ったら、今度作ってくれるって!」
ジェーナは正直驚いていた。
こんなに自分以外の人とコミュニケーションを取るアリーチェを見るのは初めてだった。
「アリーチェ様、今日は沢山お話されたのですね」
「お菓子のお話は好きですか?」
ジェーナの言葉に、アリーチェは少しだけ考えて口を開いた。
「うーん、お菓子の話は好きだけど・・・みんなジェーナみたいにイヤな感じが出てないから、お話しするのが好き!」
その言葉にジェーナははっとした。
アリーチェは、相手が言葉に出さなくても態度や表情、いや、もしかしたら別の感覚で何かを感じ取っているのかも知れない。
特に、相手が畏怖したり思惑を持って話しかけてきていることを、嫌な感じとして受け取っていたのかも知れない、そう思い至った。
「そう、なのですね」
ジェーナは少し安心したように言った。
「今度ね、リォン、リーネ、さんがお菓子を作ってくれるの、遊びに行っても良い?」
アリーチェはジェーナの顔を見て聞いた。
そんなアリーチェを愛おしく思えたジェーナは少し涙ぐんで返事をした。
「ええ、そうですね、今度、休暇を頂いて、お菓子をご馳走になりに来ましょう」
「やったー!」
アリーチェは年代相応の態度で喜びを表す。
そこに、リォンリーネが自慢げに口を開く。
「ふふ、こう見えてもわたしはお菓子作りが結構上手なんですよう」
「楽しみにするが良いですよう」
それを聞いたアリーチェは楽しみなようで瞳をキラキラさせていた。
リォンリーネが続ける。
「でも、わたしは、リォン、リーネ、さんでは無いですよう」
「リォンリーネと続けて呼んで欲しいですよう」
「りぉんりーね・・・うん、わかった」
アリーチェは少し言いづらそうに復唱する。
それを見ていたリォンリーネは、仕方が無いと言う表情を見せて言った。
「うーん、じゃあリォンではどうですかねえ?」
「リォン、リォン!覚えやすい!」
アリーチェは嬉しそうに言う。
「おぼ・・・ま、まあ良いですよう、アリーチェちゃんに覚えてもらえるなら、リォンで良いですよう」
リォンリーネは仕方が無いと言う表情で微笑みながら、譲歩した。
アリーチェを中心に、みんながにこやかに話している姿を少し離れた所から迅代は眺めていた。




