「連射」
次は連射を試してみる事にする。
連射と言っても、矢を手で入れないと言うだけだが。
それでも数秒は稼げるだろう。
戦闘中の数秒は生死を分ける時が有る。
残りの矢4本を一度に装填する。
今の所、弾倉部に4本、発射部に1本の最大で5本の矢が装填できる容量が有った。
迅代は連続射をイメージして、弓引きを腕の力だけで試してみる。
「う、ぐぐ・・・」
完全に引き切る事は出来ない。
『やはり足で抑え背筋を使って引くしかないか』
弓の張力が高い分、威力を上げてくれている。
「さすがに威力と連射性能はどちらかしか取れんぞ」
ジールが見透かしたように言う。
「はい。仕方がないです」
迅代は答えると、今度はいつもの方法でどれだけ早く撃てるかを試すことにした。
射撃姿勢から、足元にクロスボウを立てて、先端のL字金具を足で押さえ、ワイヤーの弦を金具を掛けて背筋で引き上げ、再度構えて、撃つ。
これをできるだけスムーズに4連射を行ってみた。
慣れて1射5~6秒という所だろう。
ショートボウの連射にはかなわないが、人数が居ればそれなりの弾幕を張れるだろう。
ただ連射したらやはりバラついて、3本が的に当たらなかった。
「矢は5本しかまだないぞい」
ジールが言う。
迅代は言っている意味に気づき、ダッシュする。
「取ってきます!」
矢を回収するついでに、的に当たったものの状態を見てみる。
全金属製の矢なので、当たった後の運動エネルギーが大きい事と、矢の後方も重量が有るため、当たった後に矢の動きが不安定化し、縦に刺さっていた。
これは威力の面では有利かも知れないと迅代は考えた。
弾丸も同じで、体に当たって、すっと抜けると相手のダメージは小さい。
体内を跳ねまわったり、弾が潰れて体組織を破壊すればダメージが大きいという理屈だ。
後方の土手に刺さった残りの矢を回収すると3人の居る場所に戻った。
「どうじゃい、この試作品は」
ジールが睨むような眼で言う。
もっとも、ジールは迅代の40cmほど背が低いので、上目遣いでにらんでいるように見えるのだが。
「正に注文した通りの素晴らしい品です」
「連射中も1本も装填不良が無いなんてすごいです」
「しかも、各所に細やかな配慮が有って、さすがと言わざるを得ません」
迅代は新型クロスボウをベタ褒めする。
「そうじゃろう」
ジールは得意げに言う、が続けて。
「だが」
「気になる点が無いわけでは無いのだろ?」
ジールのじいさんはお見通しのようだった。
「贅沢を言えばなんですが・・・」
迅代は言いにくそうに言う。
「まず、弾倉を取り換え式にできないでしょうか?」
「4発の弾倉と言うのももう少し数が欲しいですが、撃ち尽くした後、弾倉交換だけで射撃ができるようにしたいです」
ジールは顎を振ってさらに促す。
「それと、やはり弓引きですね」
「個別の金具を弦に引っかけるのは戦闘中は錯誤の元です」
「クロスボウ本体に引き棒みたいなものが付いていて、それを引く形に出来ないでしょうか?」
ジールは言う。
「ほかには?」
迅代は言いよどんで、口を開く。
「矢の精緻さが少し気になりました」
「これは結構な製造工数が要りそうだと」
「でも、この自動装てんは、矢の出来も前提のものかと思います。悩ましい所です」
ジールは迅代の言う事を少し考え、言った。
「お前さん、具体的に提案してくれてわかりやすい」
「お前さんの言った内容で、いくつか案も浮かんだ。もう3日ほどあれば、再度試作品を作れるだろうよ」
「ただし、矢の話は直ぐに変えることが出来んがな」
迅代は目を輝かせる。
「ホントですか??助かります!」
そこでジールが冷や水を浴びせる。
「ただし、金のほうはたんまり弾んでもらうぞい」
横に居たレクスもちょっと困った顔ではにかむ。
迅代はセレーニアのほうを向いて言った。
「どうでしょうか?」
セレーニアはもう慣れて来たようで、笑顔で言った。
「大丈夫ですよ、ジンダイ様」
それを聞いて迅代は言う。
「大丈夫だそうです!」
頼り無さそうな勇者だなあ、とジールは思った。




