「ジェーナの考え」
ジェーナは荷物の箱を借りて、敷物を敷いてアリーチェを座らせた後、お話の間、待っていて欲しいと伝えて、迅代と少し離れた場所に移動した。
東門の周囲が見渡せる場所で、ジェーナと迅代は向かい合う。
「勇者アリーチェ殿を、守る、とはどういう事なのでしょう?」
理由について話し辛そうにしているジェーナに気を使って、迅代から切り出した。
「実は・・・これも不敬な事かとは存じ上げるのですが、勇者ザーリージャ様の事です」
ジェーナは少し遠慮がちに話を始めた。
「今までの戦いで、勇者ザーリージャ様があまり魔王軍討伐の戦いに積極的ではないような態度をなさっている」
「そんな印象を持っておりました」
「これは、勇者様に対してとても不敬な考えで、そんな事を口に出すのはいけない事と分かってはいます」
迅代は、ジェーナの言葉に頷いて、続きを促す。
「あまり戦いに積極的でないのは皇子殿下がザーリージャ様を護衛として手元に置いておく決定をされた事も有るのかも知れません」
「ですが、今回の戦いでは、アリーチェ様の魔力切れに際し、自分が参戦すれば魔王軍に勝利できると、進んで、参戦を希望されたのだとか」
「しかし、結果は、勇者ヴィンツ様が重傷を負い、危機に瀕したとの事」
「その時、勇者ザーリージャ様は特段の力を発揮して助けようともされなかったと聞いています」
ジェーナの言葉に、迅代も思う所が有った。
迅代は、勇者ヴィンツ、勇者ザーリージャが魔纏兵と戦うのをこの防御区画からスコープ越しに観察していた。
その時の、勇者ザーリージャの戦い方に違和感を感じていた。
ジェーナは続ける。
「勇者ザーリージャ様は、魔王軍を討伐する勇者、ということ以外の何かの目的をお持ちのように感じるのです」
「そこで、ふと、不安に思ったのです」
「このまま魔王軍討伐部隊に籍を置いていると、アリーチェ様もヴィンツ様と同じ目に遭わされるのでは無いかと」
「特に、今、勇者ヴィンツ様は負傷し、完全な状態ではありません」
「少なくとも数日は、ザーリージャ様とアリーチェ様とで魔王軍討伐部隊を支える事になるでしょう」
「そこで、ザーリージャ様とで共同の作戦が有った場合に、万が一の事態でアリーチェ様を助けれらる者は居ません」
ジェーナの言葉に迅代は、その必死さを感じ取る。
ここまでの発言は、外部に漏れれば魔王軍討伐部隊を外され兼ねないほどの踏み込んだ発言だった。
実はジェーナ自身はもう少し深く勇者ザーリージャを疑っていた。
もしかして敵に利するような行動を取るのではないかと。
そうなると、今の魔王軍討伐部隊で助けを求められる者は居ないので、迅代に頼る以外に道は無いと考えていた。
だが、今の段階では、それを迅代に告げるべきでは無いと考えていた。
「どうか、魔王軍討伐部隊がリシュターを離れるまでの間、危機の際にはアリーチェ様を援護をしていただきたいのです」
ジェーナはそう言うと、迅代の目を見つめて答えを待った。
迅代は少し考える目をしてジェーナの言葉に即答を避けた。
迅代も確かに勇者ザーリージャの行動には違和感、いや、不信感を持つまでになっていた。
特に、勇者ヴィンツに深手を負わせた魔纏兵は、当初、勇者ザーリージャが対戦していた。
それが別の「仲間」を襲撃するような隙を魔纏兵に与えて、知らぬ振りでは、安心して背中を預けられる仲間とは言い難かった。
『問題は、ザーリージャの目的とは何か、という事だが・・・』
そんな事を考えるが今の迅代には答えが出せなかった。
「ジェーナさんの考えは分かりました」
迅代のその言葉にジェーナは少し落胆の色を見せる。
切り出した言葉から、断られることを覚悟したからだ。
迅代は続ける。
「しかし、私は司令官であるボーズギア皇子には疎まれている身」
「正面から護衛を引き受けますとは言えない状況なのです」
ジェーナはその辺りの事情も知っていた。
それでも、魔纏兵のような戦力に対応できる勇者級の人物が居ないため、ダメ元で話に来たのだった。
「それでは、やはり、無理なご相談という事になるのでしょうか・・・」
ジェーナは残念そうな口ぶりでそう言って、引き下がろうとした。
しかし、迅代は、言った。
「いえ、このリシュターに居る限りは、作戦行動中の護衛は引き受けますよ」
ジェーナはぱっと表情が明るくなる。
「本当ですか??」
迅代はジェーナに向かって続ける。
「わたしは魔王軍討伐には特にアリーチェ殿の能力が必要と感じているのです」
「強力な一撃よりも、広範囲な攻撃による敵戦力の漸減という面においてです」
「それを失うような事は大きな損失です」
「わたしのチームの誰かは作戦行動に合わせて、行動するようにします」
「無論、隠密での行動でですが」
「もし、勇者ヴィンツ殿のような状況に陥りそうな時は、介入を行います」
「その時は私も加勢します」
迅代はそこで、一拍おいて、さらに追加で言った。
「実は、私も勇者ザーリージャの行動には疑念を持つようになっていますので」
ジェーナは迅代の言葉に感謝の意を示す。
「ありがとうございます!」
ジェーナはとりあえず迅代との話し合いが上手く行った事に安心し、勇者アリーチェの様子を確認する。
アリーチェは同じ場所に座りながら、迅代チームの部隊員たちと談笑していた。
その様子を見ながら、ジェーナ自身、想いを巡らせていた。
もう、自分がアリーチェの言葉を代弁し、手取り足取り対応しなくても、ご自身で判断し、行動できるようになってきているのではないかと。




