「反攻作戦:勝利」
魔纏兵が撤退した後の魔王軍東門部隊は、戦意を喪失したかのように脆弱となった。
更なる魔獣が襲って来るかと身構えた白虎支隊であったが、後退する魔王軍部隊を追撃するも、反撃は受けていなかった。
黒龍支隊も前進を開始したが、勇者ザーリージャがあまり戦意が無い様子で、進撃のスピードはゆっくりだった。
それでも、2部隊の勇者部隊で圧力をかけられた魔王軍部隊は、じりじりと後退し、とうとう当初に占領された東門の防衛区画まで達した。
勇者ヴィンツは、ヒーラーの力によって概ねのダメージは回復した。
そこで、先頭を切って、東門の攻撃部隊の司令部が有ると思われる防衛区画に突入した。
しかし、そこには敵の司令部はもう存在していなかった。
すでに撤退した後のようだった。
白虎支隊の兵士たちは拍子抜けしたが、もう一つの謎がある。
2万近くの兵員を魔王軍はどうやってこのリシュターまで送り込んだのかという事だ。
そして今撤退している魔王軍を追跡すれば、その謎は解明できるかもしれない。
敵は東門と、南東門の側に最初に現れた。
すなわち、その方面に敵の拠点があるものと思われた。
しかし、白虎支隊はここで追撃を止める判断がなされた。
司令官であるボーズギア皇子がもう充分であるとして、これ以上の追撃を止めるように命令を出したのだった。
これでは、またリシュターが襲われる可能性が残る事となる。
しかし、ボーズギア皇子がそのように判断したのなら、魔王軍討伐部隊はもう動けない事となる。
後はリシュター領地軍で対応するしか無い。
だが、これで、一旦はリシュターは実質包囲から解放された。
後はリシュター領地軍が受け持っている、北東門の敵が掃討できれば、リシュターは完全に開放された事となる。
北東門の戦闘はまだ継続しているが、こちら側でも敵は撤退の傾向が有ると言う。
東門の主力が撃破されたのだ、戦闘継続にもう意味は無かった。
「ジンダイさんも、皆さんも、ご無事で何よりですよう」
東門の迅代達が陣取る防御区画にリォンリーネがやって来た。
戦闘状態が概ね収まったと言う事でパーンとリォンリーネが食べ物を持ってやって来たのだった。
「ええ、リォンリーネさんが突貫で作ってくれたライフル銃のおかげで、十二分に戦うことが出来ました」
迅代は、にこやかにリォンリーネに話す。
「そう、凄いんだよ、徹甲弾を使ったら黒い悪魔の兵士に大ダメージを与えられるんだよ!」
イリナがテンション高くリォンリーネに駆け寄る。
「おお、そうでしたか、役に立てたようで鼻が高いですよう!」
リォンリーネも調子に乗ってちょっと天狗になる。
「ええ、驚きました。このライフル銃が無ければ、勇者様たちも危なかったかもしれません」
セレーニアも銃の感想をリォンリーネに告げる。
「それはもう、徹夜して作りましたからねえ」
「苦労したんですよう」
そう言いながらセレーニアから差し出された手を握って握手する。
「あー、わたしも!」
イリナが二人の握手している手に重ねる。
「うわ、じゃあわたしも」
このノリに参加するべく、アレジアも何故か手を乗せて来る。
「アレジアさんは銃撃ってないじゃん」
イリナのツッコミにアレジアは言う。
「わたし達はチームなんだから、一人の勝利はみんなの勝利なの!」
その言葉を聞いてセレーニアは言う。
「まあ、仲間に入れてあげて。アレジアも嬉しいんでしょうから」
そういうセレーニアにアレジアはウインクして答える。
「ふふ、冗談、アレジアさんも一緒に喜ぼう!」
イリナはアレジアのほうを向いて微笑んだ。
「まったく、かしましいねえ。戦闘部隊とは思えないノリだな」
女性陣の喜ぶ姿を見て、リガルドは呆れたように呟く。
「でも、本当に嬉しいよ。魔王軍撃退に貢献出来て」
イリナが喜ぶ様子を見てグリーナもほほえましい気持ちで言う。
「で、そろそろメシにしましょうよ」
「昼食抜きで今までやって来たんだから」
トールズは早く何か食べたいと思い、我慢できずに言う。
そんな声を聞いて食料を入れた箱の前に居たパーンが口を開く。
「おお、そうだな、パンと干し肉とスープがあるぜ」
「給仕は俺がするから順番に並んでくれ」
「おお、うまそうだ」
リガルドはそう言うと、先頭に並んだトールズの後ろ並ぶ。
そんな仲間たちの様子を見ながら迅代は考える。
『今回の戦いで、俺たちの部隊はかなり勝利に貢献できたはずだ』
『まだ、魔王軍との戦いは続くだろうが、一つの戦い方は見えた』
『だが、リシュター領での戦いはまだ完全に終わっていない』
『内通者が居るだろう事、そして勇者ザーリージャの事』
『特に内通者の問題解決は急務だ』
『直接、俺たちに攻撃を仕掛けて来ているからな』
魔王軍部隊との戦いはおおむね落ち着くだろう。
しかし、まだ安心できる状況とは言えないと。迅代は考えていた。




