「反攻作戦:思わぬ襲撃」
勇者ヴィンツは膝を付いた魔纏兵に向かい、攻撃を仕掛けようと瞬間ダッシュによる移動で間合いを詰めて斬りかかった。
しかし、後ろからもう一体の魔纏兵が突進してくる。
ヴィンツは後ろから襲撃してきた魔纏兵の突きをかわしつつ、斬り込みを行う。
「ザッ!!」
浅い。
国宝剣の切っ先は回避する魔纏兵に届いたが、左腕に傷を負わせるに止まった。
しかし、2対1でようやく互角だった両者の戦闘の均衡が破れた。
魔纏兵のうちの1体は戦闘力が大きく落ちつつあった。
しかも勇者ジンダイのチームからの射撃にも気を配らないといけない。
このまま戦闘を続けると、その1体、いや、2体ともが勇者ヴィンツに撃ち倒されてしまう事は必然のように思えた。
その状況に焦りを見せたのか、魔纏兵の2体が体勢を立て直し、2体ともが並んで回り込んで機動する。
勇者ヴィンツも次の一撃は勝敗を決する一手になる事を意識して、2体の動きに集中する。
そんな様子を東門の戦闘区画から迅代も見守る。
「うん?」
そんな状況を俯瞰して見ている、迅代は妙な違和感を覚える。
勇者ヴィンツに向かって魔纏兵の2体が今までにない全速力で突進する。
地面に足を付けないで浮遊しながら。
瞬時に勇者ヴィンツに迫る2体。
しかし、2体の魔纏兵がヴィンツに達する前に、ヴィンツの後ろから黒い影が迫る。
「ズブリ!!」
後ろから別の魔纏兵が右腕の仕込み剣を勇者ヴィンツの背中に突き立てていた。
「うぬぅ!!」
勇者ヴィンツは声を上げるも、瞬間に奇襲された状況を悟り、左腕を振り背中を刺している魔纏兵を殴打する。
「ガズン!!!」
第三の魔纏兵はヴィンツの殴打が直撃して転がりながら吹き飛ぶ。
そして、正面から迫る魔纏兵2体にも、ガブルジーンを振るって太刀筋をいなす。
「ギン!!」「ギン!!」
太刀筋をかわされ、後方に移動した2体の魔纏兵は、くるりと旋回し、勇者ヴィンツのほうに向かう。
吹き飛ばされた第三の魔纏兵も、体勢を立て直して立ち上がる。
第三の魔纏兵は、ザーリージャが戦っていた魔纏兵だった。
勇者ザーリージャは自分の相手だった魔纏兵がヴィンツに襲い掛かるのを放置して、面白くなさそうに、ただ突っ立っていた。
背中から魔纏兵の剣を突き刺された勇者ヴィンツは片膝を付く。
「ぐはぁ!!」
口から血が流れ落ちる、
背中から肺に向かって突き刺され、出血もしているようだった。
「勇者様!!」「ヴィンツ様!!」
護衛の騎士や戦士が勇者ヴィンツがダメージを負ったことに驚きの声を上げ、盾になろうとヴィンツにかけ寄る。
魔纏兵が襲って来ればひとたまりも無いはずなのに。
その様子を見ていた迅代は、一刻の猶予も無いと判断し叫ぶ。
「援護!魔纏兵を狙って各個に射撃!」
言い終わらないうちに、迅代は自分のライフルを撃ち出す。
「ボン!キュイイィィィ!!」
「ガン!!」
第三の魔纏兵の頭部に迅代の銃弾が命中する。
その衝撃で、魔纏兵が転がる。
魔纏兵の黒い色のヘルメットアーマーにダメージを与え、ヒビと穴をあける。
通常弾では威力不足で貫通は出来ないが、敵に隙を与えないよう徹甲弾の弾倉には変えず連射を優先した。
「ボン!ギュイ!」
「ボン!ギュイ!」
セレーニアとイリナのライフルも各個機目標を定めて撃ち出す。
今度はダメージを負った魔纏兵の足に命中し、魔纏兵が飛び上がる。
しかし、簡易生産ライフル銃では銃弾加速器が簡易型の為、威力は劣る。
それでも、少なからずのダメージは与えられているようだった。
ボルトアクションのライフルとは言え、3丁同時の銃撃だとそれなりの弾幕になる。
魔纏兵の3体は、銃弾の雨の中、対応策を編み出していた。
魔纏兵の優れた動体視力で弾丸が命中する前に、比較的装甲厚のある腕部分のアーマーに弾丸を当てて跳ね返すのだ。
簡易ライフル銃の弾丸ではこの対策が上手くいっていた。
「ガン!!」「ガギン!!」
3体の魔纏兵は上手く弾丸を跳ね返して行く。
しかし、下手に背中を見せたり、当たり所が悪いと致命的な傷を負いかねない威力があるため、簡単には動けない。
そして、迅代は通常弾の弾倉を討ち尽くしたので、徹甲弾の弾倉に切り替える。
「ガチャ、ガチャン」
槓桿を操作し、徹甲弾を薬室に装填し、狙い、撃つ。
「ボン!キュイイィィィ!!」
魔纏兵は迅代の弾丸を腕で跳ね返そうと狙うが、徹甲弾ではそうはいかなかった。
「ガシュ!!!」
弾丸が命中し、大きな音と共に魔纏兵の右腕がちぎれる。
右腕は宙をくるくると舞い、ボタリと地面に落ちる。
そして勢いを落とされたとは言え、徹甲弾はそのまま魔纏兵の首の下部分に命中する。
「ギュオオオオオオオ!!!」
腕が吹き飛ばされた魔纏兵は大きな鳴き声を発して後ろに倒れ込んだ。




