「新しい武器」
冒険者ギルドでの話は、領域捜索の依頼、ただし遭遇戦の可能性あり、といった形で募集をかける形で収まりそうだった。
ギルドマスターが言った金額とどのぐらいの差が出るかは判らないが、2~3チーム雇えるなら、かなり濃密な偵察活動が出来そうと感じていた。
この日の話では、2~3日中に正式な依頼文を作成して、掲示できるように進める方向で合意した。
迅代とセレーニアは冒険者ギルドを離れ、今度は近衛隊御用達の武器屋に向かう。
迅代のアイデアを取り入れたクロスボウの試作品を見に行くためだ。
その武器屋は城下町の堀を出て少しした所にあると言う。
当然、迅代は城下町を出るのも初めてだった。
城下町を出て30分ほど馬車で移動した所に、小さな集落が有った。
人はあまり見かけないが、大きな土盛りの上から煙が立ち上っている。
どうやら金属類の溶鉱炉のようだった。
そういった土盛りがいくつか有り、その横には平屋の建物が建っていた。
「なるほど、工房が沢山有るのような雰囲気ですね」
迅代はつぶやく。
「ええ、この集落はデトナ村と言います」
「近衛隊や城の武器や金属製品を主に作ってもらっています」
セレーニアが説明する。
「ここですね」
青色の看板に「第十三工房」と書かれた建物の前でセレーニアが言った。
建物の横に馬車を付け、2人は降りる。
すると建物から腰の曲がった老人と若い青年が出て来た。
「おう、来たかい」
老人が声をかける。
「試作品のほう、見せてもらいに来ました」
セレーニアが言う。
「あと、紹介を」
続けてセレーニアが迅代を紹介する。
「こちらが召喚された勇者様、ジンダイ様です」
紹介されてペコリと頭を下げながら迅代は言う。
「よろしくお願いします。ジンダイと言います」
老人は迅代をジロリと睨んで言った。
「勇者様にしては、迫力が無いのお」
横の青年が慌てて「おじいちゃん!」と制止する。
セレーニアも慌ててどうフォローして良いか分からないようだ。
「いえ、良く言われますから」
迅代は気にするまでもなく、自虐的に肯定して見せた。
「ふん、まあええわい」
「わしはジール、十三工房の工房主じゃい」
「主に弓類を扱っておる」
「こっちは弟子兼孫のレクスじゃい」
ジールと名乗った老人が青年の足をポンと叩く。
「レクスです。おじいちゃんが失礼な事言ってすみません」
レクスと名乗った青年は非礼を詫びる。
「いえいえ、気にしないので大丈夫ですよ」
迅代は気にしないようにと告げる。
「で、お前さんがあの機構を考えたのか?」
ジール老人の問いに迅代に言う。
「まあ、考えたと言うか、自分の世界に有ったものの応用ですね」
少し考える目でジール老人は続ける。
「確かにこれなら矢は自然に次々と発射位置に来るが、弓の弦、装填された矢、そして次発用の箱の中の矢が全て上手く動けばという前提じゃがな」
その言葉に迅代が同意する。
「そうですね、この国の工作精度がどのぐらいか分からないのですが、弓引き時に弦をうまく矢の上を通るようにするとと」
「発射後に次の矢が上手く降りて、装填位置に来るか、何発有っても同じテンションか、矢の弾倉のバネ加減がミソになります」
少し迅代の言葉が気に障ったらしい。
「今、工作精度とか言いおったな」
しかしジール老人の不興をものともせず迅代は続ける。
「はい、恐らく矢の隙間の空き方と、矢の形状、太さ、均一さで動作不良が起こる確率が変わって来るでしょうね」
むっとしたジールが言う。
「わ、わかっておるわい!」
「ジール工房の精緻な工作は定評があるんじゃ!」
その言葉に感心する迅代。
「おお、それは楽しみだ。上手く動く試作品が出来たのですか!?」
得意そうな顔になってジールは言う。
「おい」
そう言ってジールはレクスに指示する。
レクスは工房から、クロスボウの上に箱状のものが付いたものを持ってくる。
「おお!想像通りです!」
迅代が目を輝かせる。
「持っても良いですか?」
ジールは首をくいっと振って指示する。
レクスはクロスボウを迅代に渡す。
「うん、良いですね!」
「重さもそれほどでもないし、弾倉の感じは想像通りです」
「撃ってみても?」
迅代の言葉に、また、ジールは首をくいっと振る。
するとレクスが矢を5本と、弓引き用の金具を持ってきた。
迅代は矢の品質を確認する。
太さは7~8mmほど、長さは20cmほどの棒状の金属製で、先端が尖らせてある。
矢羽根は薄い金属の組み合わせで十字に組み立てた物を矢の後ろに差し込み、羽根が1cm無いぐらいに出るような形で、溶接で止めていた。
『矢のほうにも製造工数は結構かかっていそうだな』
関心はするが精緻な作り込みなのが少し気にかかった。
だが、ジールの言う通り、5本の矢の品質的なばらつきは無さそうだった。
迅代はまず、弾倉のバネ部を上から開け、矢を一本のみ装填し、弓引きを行う。
弓引きは前のクロスボウと同じ、足でL字の金具を踏み弦を手で引き上げる。
弦は金属製でワイヤー状になっていた。
『さすが、言うまでもなくワイヤーにしてくれたのか』
ここでも迅代は感心する。
クロスボウを下に向けても矢は落ちない。
そして力を込めて発射位置でカチっと弦が止まる。
弦を止める機構も、引き込みやすく止めやすいよう工夫されていて、戦闘時などの混乱時も扱いを間違わない配慮が感じられる。
発射準備は完了した。
「あの標的を狙っても?」
迅代が工房の外の20mほど向こうにある、標的を見て言った。
「うん、当てられるのならな」
ちょっと挑発的にジールが返す。
迅代が立ち撃ち姿勢で狙い、撃つ。
「ひゅん!」
「ザッ!」
標的の下側ギリギリに刺さる。
『弾道の落下が想像以上か・・・』
迅代は思う。
「ふん、初弾にしてはまあまあじゃな」
ジールは内心は感心していたがひねくれた物言いで言った。




