「反攻作戦:魔獣の伏兵」
「オ、オーパっ・・・」
電撃の直撃を受けた白銀騎士リセルゼは、2mほどの先で塹壕内でうずくまっているオーパに声をかける。
しかし、反応が無い。
「サージョ・・・ん」
その向こう側に居るサージョンにも声をかけるが、同じく反応が無かった。
身動きもしない二人が、無事なのか分らなかった。
もっとも、リセルゼ自身も今すぐに動ける状況では無かった。
耐魔法の鎧でも、強力な電撃攻撃の直撃を受けたのだ。
即死していてもおかしくない状況だった。
なんとか体を起こして塹壕の先、地面の穴から姿を現したヒドラのような魔獣に目をやる。
首は4つしかなく、完全なヒドラと言う訳では無さそうだった。
しかし、Aクラスと同等・・・いや、もしくはそれ以上の実力は持っているだろうことは想像できる。
そして、Aクラス相当に評価されるグロウサーペントが2体。
塹壕に取り付いた先鋒隊は塹壕内に身をひそめて、これら魔獣たちをやり過ごすしか無さそうだった。
しかし、魔王軍もそんな雑な反撃を行う訳も無い。
魔獣たちの後ろから、残敵掃討用に戦士級の魔物、ミノタウロスやオーガのような数体の強力な兵士が続いていた。
この戦士級の兵士に見つかれば、命は無いだろう。
完全に隠れていた穴からはい出した魔獣たちが前進を開始する。
その後ろには10体ほどの戦士たちが、徐々に広がって、塹壕内に隠れるリシュター軍の兵士をせん滅しようと追従して来る。
中衛の部隊が救援してくれないと先鋒の部隊は本当の意味で全滅、全員死亡という運命になる。
リセルゼが塹壕内で体を起こし、後方の様子を見る。
体の各所に激痛が走る。
白銀のプレートメイルに守られたとはいえ、体の各所に火傷と痺れが有り、満身創痍だった。
身を起こしたが後方の様子は分からない。
もう、祈るだけしか出来ない。
リセルゼは考える。
もし、魔獣が幸運にも自分の攻撃範囲内に来れば、せめて一太刀浴びせてやろうと。
今はその程度の事しか出来ない状況だった。
それからしばらくして、突如、雷のような轟音が再び響く。
「ガガガン!!」
突然起こった稲妻のような電撃が、リセルゼが来た方向、後方に向かって走る。
リセルゼは稲妻の走る方向に目をやるが、良く見えない。
その稲妻の走った先で、ぽぅっと広範囲に発光したように見えた。
続けて、稲妻が、1本、また、1本と後方に走り去っていく。
「ガガガン!!」「ガガン!!」
魔王軍が魔法で中衛部隊を攻撃しているのだ。
中衛部隊には強力な冒険者、ラックランやジュブラが居る。
リセルゼは彼らが魔法攻撃を上手く防御してくれることを祈り、再び、前進して来る魔獣たちに目を向ける。
あと30mほどまで魔獣の先頭を進むヒドラの出来損ないのような魔獣が迫る。
「あいつと刺し違えるか」
自身に言い聞かせるように独り言を言う。
あの電撃攻撃でも手放さなかった、大剣ダイアライアをぎゅっと握りしめる。
そこに、突然、ヒドラの頭4つに同時に光の槍が突き刺さる。
「ザザッ、ザッ!」
ヒドラの出来損ないは、頭を4つとも同時にグルグルを振るわせて暴れる。
光の槍が消える頃、ヒドラの出来損ないの4つの首が大きな音を立てて地面に崩れ落ちる。
「ダン!、ダダン!」
「魔法攻撃・・・フィルス殿か?」
中衛に居るであろう、ラックランの強力な魔法士フィルスの事が頭に浮かぶ。
その通りだった。
フィルスは、敵の電撃攻撃から味方を防御し、ヒドラのような魔獣に対し、攻撃を仕掛けたのだった。
それと同時に、リセルゼが居る塹壕近くを飛び越える冒険者たちを見かける。
ラックランのオフェンス、グスタージとバンノーだった。
グスタージはリセルゼを認めて後方に叫ぶ。
「リセルゼのダンナがここで倒れてとるで!」
そして、止まりもせずに、動かなくなったヒドラの出来損ないの後ろから迫る戦士級の魔物兵に向かって行った。




