「反攻作戦:膠着の打開」
「やはり南東門の陣地兵力は思ったほど減っていない」
勇者ヴィンツは白虎支隊指揮官に告げる。
次から次へと現れる数に物を言わせる魔物兵に、白虎支隊の面々も辟易してきた所だった。
白虎支隊指揮官も同じ考えのようで頷く。
「ここは、魔法支援部隊のアリーチェ殿に支援を頼んで数を減らしてもらうように要請してもらえるか?」
ヴィンツの言葉に白虎支隊指揮官は行動を開始する。
南東門の魔物兵部隊は、陣地内に分散して夜を過ごしていた。
後方に設営されたテントも、内部は穴が掘られ、大規模魔法も直撃しない限りは被害を受けにくい対策が取られていた。
そして、魔王軍の司令部からは、今日攻撃が有る事が予告され、穴の中で一夜を過ごすよう厳命されていたのだった。
その予告が現実のものとなり、大規模魔法「スレッジャーギーム」の大爆発でも兵員の1%ほどにしか損害を与えられなかったのだった。
勇者アリーチェは南東門の1番弩弓が設置されていた戦闘区画に居た。
そこには黒焦げになった弩弓が放置されていた。
弩弓の戦闘員が地獄絵図の中全滅した気味の悪い場所だが、南東門の正面を見渡すには絶好の場所だった。
勇者アリーチェはジージーの視界を通して、戦場を眺めていた。
「もっと攻撃したほうがいいのかな?」
アリーチェはお付きの兵士ジェーナに問いかける。
戦術的な判断は基本アリーチェは行わない。
魔法を使用する対象や規模は、ジェーナの要請に従っていた。
「アリーチェ様、魔法力は温存しておきましょう」
「あの黒いもやの兵士が出てくれば、勇者でないと太刀打ちできませんからね」
ジェーナは現状を維持するようにアリーチェに告げる。
「うん、わかった」
アリーチェはそう言いながら、更にジージーの視界を通して戦場を眺める。
アリーチェを除く魔法支援部隊の魔法士の兵士たちは、前線で魔物たちを攻撃していた。
その戦闘の様子を眺め、味方に危険が迫った場合のみ、魔法力の消耗が少ない攻撃魔法を撃ち込み助ける、という作戦を取っていた。
そのおかげで、魔法支援部隊の損害は軽微だった。
そんな戦場から伝令と思われる馬が南東門の方向に向かって来るのが見えた。
しばらくして、伝令が、アリーチェの元にやって来た。
アリーチェと、その側にいる参謀とジェーナは伝令の要請を聞く。
「勇者ヴィンツ様より、敵の生き残りが想定外に多いため、更に魔法攻撃で撃ち減らしてほしいとの要請です」
「実行していただけますか?」
伝令の言葉にその言葉を聞いた参謀も同意する。
ジェーナもその様子を聞いてアリーチェに伝える。
「敵がまだいっぱい残っているので、勇者ヴィンツ様が苦戦しているらしいです」
「少し手伝ってほしいとの事です」
ジェーナの言葉にアリーチェは答える。
「うん、ビリビリするやつで、いっぱいいっぱい倒すよ」
そう言いながら視界を共有するジージーの高度を上げさせる。
見渡せる範囲を広く取って、ターゲットを定めていく。
魔物が10体ほどのチームを約200個、トロールの集団を約10個、ミノタウロスと思われる戦士を20体。
後方に控えて戦場に参加しようとしているサーペント20体ほどに、フェンリル系の魔物集団1個に狙いを定める。
「えーーーい!!」
勇者アリーチェは掛け声と共に戦場に向かって両手を振り下ろした。
すると同時に雷が300本ほど発生して、戦場の至る所で稲妻が走り回る。
「ガガガガガガ、ガガ、ガ、ガガン、ガガン」
少し遅れて重奏する雷音が戦場に響き渡る。
その音の大きさと規模に、戦場で戦っている魔王軍討伐部隊の兵士たちも思わず縮こまってしまう。
「なんだ?」
「ひいいい!」
魔王軍討伐部隊の兵士たちは何が起こったのか分からず、怯えたり、混乱したりして、声を上げる。
そこで、めずらしく、勇者ヴィンツが剣を掲げ大声で言う。
「勇者アリーチェ殿の支援攻撃だ!」
「敵は大損害を受けている!」
「今がチャンスだ!!」
そう言うと、同じく驚いて混乱している魔物兵たちに斬りかかる。
護衛の騎士たちもそれに続く。
南東門の前の敵陣地は、アリーチェの広範囲同時攻撃で、防衛線に大きな穴が開くことになった。
この攻撃1回で南東門の魔王軍の40%ほどの戦力が失われた。
しかし、勇者アリーチェの魔法力も大きく消耗し、すぐに大規模魔法は放てない状況だった。
大損害を受けた形の魔王軍であったが、この状況も魔王軍が望んだ形ではあった。




